「復興」「再選」引き寄せられるか 馳知事、27日1期目折り返し

報道陣の囲み取材に応じる馳知事=26日、県庁

  ●「動き早い」「振り回す」 県政運営に賛否

 馳浩知事は27日、1期目の折り返しを迎える。4年の任期の前半は国民文化祭や北陸新幹線県内全線開業といった大規模イベントに恵まれた一方、東京五輪を巡る「機密費発言」など自ら窮地を招く場面もあった。元日に発生した能登半島地震により、県政の最重要課題は長期にわたって被災地の復旧、復興と新たな石川の創造となることが避けられない。後半戦に入る馳知事は「復興」と「再選」の両方を引き寄せられるか。(政治部長・藤澤瑛子)

 「そういうことを考えているひまはない。被災地、被災者、事業者のため、一生懸命取り組むだけだ」

  ●再選意欲を封印

 26日、県庁で開かれた災害対策本部員会議の終了後、記者団に残り任期が2年になることを問われた馳知事は淡々と語った。一時は「3期12年はやりたい」と語り、2年後の再選出馬は既定路線とみられる知事だが、地震対応に臨む真剣な面持ちを崩さなかった。

 22年3月、保守三つどもえの激戦を制して知事の座に就いた馳氏。就任1カ月後の調査では支持率が6割を超え、まずまずの滑り出しとなったが、知名度が高く目立つこともあってか、その言動は何かと物議を醸してきた。

 22年8月の白山登山では南加賀を襲った大雨で下山できなくなり、危機管理の甘さを指摘された。同年末にはプロレス出場のうわさを「全くそういうことはありません」と否定。にもかかわらず、23年の元日には都内でプロレス興行にサプライズ出場した。

 一方、昨年5月には県内で初の国際会議となったG7(先進7カ国)教育相会合を成功裏に終わらせ、10月の国民文化祭では開会式に天皇、皇后両陛下をお迎えするなど、知事として晴れがましい場も多かった。自民党の岡田直樹参院幹事長代行はG7教育相会合を「知事が文部科学相経験者だったからこそできたことだ。持ち味をしっかり生かしている」と評価する。

 だが、プロレスラーのサービス精神があだとなったのか、舌禍も巻き起こした。

 昨年11月、東京五輪の招致活動の一環で国際オリンピック委員会(IOC)の委員に対し、官房機密費を用いて贈答品を渡したと発言。直後に「誤解を与えかねない発言だった」と全面撤回したものの、「想い出アルバム作戦」に自ら言及するなど、周囲をあきれさせる場面も目立った。

 元日の地震対応では、1月中旬の段階で「2次避難は春まで」と説明し、2次避難者に不安が広がった。国の観光支援策「北陸応援割」に関しては当初、福井、富山両県より遅らせて始める方針を示唆し、観光事業者の反発を招いた。

 予定調和に収まらない発言や行動は国会議員時代から馳氏の持ち味であり、県幹部の1人は「役人出身の知事なら打率を高めようと慎重に進めるところを、馳知事は多少打ち損じてもどんどんバットを振る。政策実現への動きが速い」と評価する。反対に、ある中堅職員は「思い付きの発言に振り回され、後の調整が大変だ。次の知事選にも出るなら耐えられない」と声を潜めた。

 知事が正月を石川で迎えるのではなく、「都内の自宅」で過ごしていたことに残念な思いを抱いた県民も少なくない。馳知事はかねて上京回数の多さが指摘されていたこともある。

  ●国とのパイプを評価

 これに対し、馳派の筆頭である自民の福村章県議は「地震後、すぐさま首相官邸に入って対策を練った。どの大臣であろうと電話一本で地震の対応をお願いしている。こんなことは馳知事しかできない」と語り、国とのパイプを生かして良くやっていると強調する。

 福村氏は「知事は最低3期やるつもりで臨まないと、まとまった仕事はできない」とした上で、「次期知事選の議論は任期が1年を切った時点でどう評価するかだ」と述べた。

 一方、非自民・非共産系の吉田修県議は「国会議員の意識が抜けていない。首長の自覚を持ち、県民、被災者の痛み、気持ちを理解してほしい」と注文した。

 昨年4月の県議選では、知事選で自身を支援しなかった候補の対抗馬を支援するなど「報復」を行ったと指摘し、「2期目を狙うなら、議員との間のわだかまりを修復する必要がある。非自民として支援できるかは次の2年間を見て判断していく」と語った。

 地震対応は知事の評価に直結するとともに、再選をにらんで打ち出したかった施策にも影響している。国民文化祭の盛り上がりを今年に引き継ぐはずだった東アジア文化都市は、七尾市が主会場だったこともあり見送りに。西部緑地公園の再整備など大規模プロジェクトも先送りとなった。納得できる道筋を

「当面は復旧、復興が最優先。新しい施策は出しにくい」と県幹部は語る。裏返せば、多くの人が納得する復旧、復興の道筋を描ければ、馳知事の目指す2期目、3期目はおのずと近づくと言えそうだ。

 実際、2016年の熊本地震後初となる20年の熊本県知事選では、現職の蒲島郁夫氏が「創造的復興」を掲げて対抗馬にダブルスコアで4選を果たし、今月24日の同知事選で後継候補が初当選した今日に至るまで、蒲島県政は県民から厚い信頼を集めている。

 22年3月、就任後初めての県議会で馳知事は「県政の主役は県民。県民に寄り添う原点を忘れず、公平公正で開かれた県民本意の県政運営を進める」と誓っていた。

 2年前の決意表明は本当なのか。未曾有の災害に襲われた県のかじ取り役としてふさわしいのか。今任期の後半戦、馳知事の一挙一動には、以前にも増して被災者をはじめとする県民の視線が注がれる。

  ●2年間の主な出来事 2022年

3月27日 知事就任

3月30日 県議会臨時会で所信表明

6月19日 珠洲市で震度6弱の地震が発生

7月8日 安倍晋三元首相が銃撃され死亡。「本当に悔しくてたまらない。心からご冥福をお祈り申し上げたい」と涙を流す

8月3、4日 白山登山中、南加賀を中心に大雨被害が発生。一時身動きが取れなくなる。後に「問題なしとはしない。どこかで登山を中止すれば良かったという思いもあった」と語る

8月26日 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から過去に選挙支援を受けたと認める

9月9日 日本維新の会の顧問に就任

  ●2023年

1月1日 都内で行われたプロレス興行に出場

1月27日 能登を中心に7市町で水道管の破裂、凍結に伴う断水被害が発生。1万1千世帯が被害

4月9日 県議選で能登3選挙区に出馬した無所属新人3氏を支援するも全員落選

5月5日 珠洲市で震度6強の地震発生

5月12~15日 G7(先進7カ国)富山・金沢教育相会合が富山、金沢両市で開催

7月1日 能登を中心に大雨被害。七尾市の熊木川、日用川が氾濫

8月12、13日 プライベートで白山登山。下山後、「最高のリフレッシュ。来年もぜひ登りたい」

10月14日 いしかわ百万石文化祭2023が開幕

11月17日 都内の会合で講演。東京五輪の招致活動で国際オリンピック委員会(IOC)委員に官房機密費を用いて贈答品を渡したと発言。後に「誤解を与えかねない発言だった。全面的に撤回し、謝罪する」と釈明

  ●2024年

1月1日 能登半島地震が発生。都内の自宅で休暇中だったため自衛隊ヘリで深夜に県入り。「(県庁と)連携が取れており、影響は全くない」と強調

1月14日 岸田文雄首相の輪島、珠洲両市視察に同行し、初の被災地入り

1月19日 安倍派の政治資金パーティー裏金事件に関連し、政治資金収支報告書に不記載の還流金計819万円を受け取っていたと明らかにする

2月22日 県議会2月定例会開会。地震対応で県政史上初となる1兆円超の当初予算案を編成

3月16日 北陸新幹線県内全線開業

3月22日 輪島、珠洲両市をお見舞いに訪問された天皇、皇后両陛下に随従し、被災状況を説明

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