海を渡る(3月27日)

 幕末、一隻の軍艦がサンフランシスコ港にたどり着く。日本の船として初めて太平洋を横断した咸臨丸[かんりんまる]だ。艦長は勝海舟。母国と異なる社会制度や産業を見聞して視野を広げ、後に祖国の歴史に名を刻む▼名前は勝の幼名と同じ。花巻東高3年(岩手)の佐々木麟太郎選手が米国西海岸へ渡る。高校野球歴代最多の通算140本塁打を放った実績が光る。著名な起業家を輩出している名門スタンフォード大で野球と勉学に励む。貴重な出会いがあるだろう。「一瞬の喜びではなく、一生の喜びという意思を持って決断した」と語る。野球選手としてばかりでなく、人として成長する―。固い決意を応援したくなる▼福島市は新年度、海外研修に挑戦する中高生を後押しする。語学、スポーツ、芸術…。世界に羽ばたく人材を育むための補助制度を設ける。期間は最大90日程度。訪問団の派遣と異なり、自主的に学ぶ姿勢を重視する。意欲的な若者には願ってもない機会になるはずだ▼勝が海外に目を向けたのは、佐々木選手と同じ年頃に世界地図を見たのがきっかけとも言われる。未知への探究心が、新時代の大海原へ導く。ふくしまを背負う若人も、大志を抱け。悠々と。<2024.3・27>

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