日本人の8割が疲労を抱えながら働いている…「疲労」が経済にも悪影響を及ぼすワケ【専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

忙しい毎日を送るなかで疲労を蓄積し続け、疲れが癒える前に働く日々を過ごしていませんか。片野秀樹氏は著書『休養学: あなたを疲れから救う』にて「約8割の人が疲労を抱えて生活していることが判明している」と、いいます。日本が直面している疲労による重大な問題について詳しくみていきましょう。

「疲れている人」は約6割から”約8割”に

ぶしつけですが、あなたは今、疲れていませんか?

おそらく、「すごく疲れている」か、「まあまあ疲れている」のどちらかではないかと思います。

なぜそういえるのでしょうか。

われわれ日本リカバリー協会は、就労者10万人を対象に、疲労に関する調査をおこなっています。その結果、ここ数年は全体の約8割が疲労を抱えて生活していることが判明しているのです。

今からさかのぼること二十数年前、1999年に厚生省が60代までの就労者を対象に疲労度の調査をしたことがあります。このときは、「疲れている」と答えたのは就労者の約6割でした。

つまり、疲れた日本人は約25年で約6割から約8割に増えたことになります[図表]。

[図表]疲労感の推移 出所:『休養学: あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)より抜粋

約8割とは、「大多数の人が疲れている」といってもいい、驚きの数字です。日本人の「疲れ」は深刻な状況だともいえます。

私たちの調査結果を男女別でみると、男性は76.8%が「疲れている」、あるいは「慢性的に疲れている」と答えています。

一方の女性は80.1%が「疲れている」、あるいは「慢性的に疲れている」と答えているので、女性のほうが疲れているといえます。男女を平均すると78.4%です。

疲労による経済損失は1兆円超え

1999年の厚生省の調査は、厚生省疲労調査研究班というところが実施しました。この研究班が文部科学省の補助金を受けて、2004年から疲労についての調査をおこなった結果、慢性疲労症候群(生活に支障をきたすような疲労が6カ月以上続く状態)の人たちがもたらす経済損失の金額が明らかになりました。

その額なんと約1兆2,000億円に上ります。びっくりするような数字ですね。しかもこれは、医療費を除いた金額です。

6割の人が疲れていたときで1.2兆円だったのですから、それが8割に増えたら、いったいいくらになるのでしょうか。この試算はまだありませんが、1.2兆円で済まないのは間違いありません。

では、なぜこのような巨額な経済損失が生じるのでしょうか。それは一言でいえば、疲れているのに無理をして働き続けることで、生産性が下がるからです。

最近、企業の生産性を測る指標として、「プレゼンティーズム(Presenteeism)」とか「アブセンティーズム(Absenteeism)」という言葉が使われるようになってきました。お聞きになったことがある方もいると思います。

プレゼンティーズムとは日本語では「疾病就業」と訳され、具合が悪いのに出社していることをいいます。頭痛や胃腸の不調、軽度のうつ、花粉症などのアレルギー症といった「つらくても無理をすれば出社できる程度の疾病」によって、本来発揮されるべきジョブ・パフォーマンス(職務遂行能力)が低下してしまっている状態です。

米国ではプレゼンティーズムによって、年間約1,500億ドル(約21兆円)の損失が出ているそうです。

一方のアブセンティーズムは「病欠」にあたります。プレゼンティーズムの状態がさらに進んで、出社できない状態をいいます。

疲労によってこのような状態になってしまった人にも、企業は給与を支払い続けます。しかし体調が悪いのに無理をしても生産性が上がらないため、“損失”としてカウントされてしまうのです。

片野秀樹

日本リカバリー協会代表理事

博士(医学)

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