特集は歌舞伎の村の「写真集」です。長野県大鹿村で、プロの写真家と村民が「大鹿歌舞伎」の写真集を作るというプロジェクトが進行中です。一風、変わった捉え方をしているということですが、果たして、どんな写真が撮れているのでしょうか?
おどけた顔に、「ピンボケ」のピース写真。
弁当を食べるおちゃめな姿まで。
すべて「大鹿歌舞伎」の役者たちです。
村で開催中の写真展。
「三百年乱反射、再演 奉ル」
独特な色合いはフィルムカメラを使っているから。
それにしてもユニークな写真が多いようですがー。
写真家・秦雅則さん:
「ある意味、失敗した写真を選んでいるので、成功した、バシッと決まったチラシになるようなものを、なるべく省いています」
写真展を手掛けた秦雅則さん(40)。
写真は10人ほどの村民と撮影してきたものです。
これらを「写真集」にして記録写真では得られない「何か」を伝えようとしています。
写真家・秦雅則さん:
「絶対ありえないような設定で撮影をしているので、そこからどんどんその方向に振っていければと」
2023年10月15日―。
江戸時代から続く大鹿歌舞伎。
2023年の秋公演は4年ぶりに人数制限なしで開催され、威勢の良い掛け声とともにたくさんの「おひねり」が飛びかいました。
会場には撮影する秦さんたちの姿も。
写真家・秦雅則さん:
「カメラ目線もらってもいいですか」
この日の撮影は上演前から。
秦さんは主に指示役。シャッターを切るのは村民から選ばれたカメラマンです。
「カメラマン」になった住民男性:
「村全体で楽しくというのに引かれて参加させてもらったと」
これは、県の外郭団体・県文化振興事業団が事務局となって、2022年、スタートした「信州アーツカウンシル」のプロジェクト。
地域の文化・芸術活動を支援するのが目的で、写真家の秦さんを招き2023年6月から、歌舞伎の写真集作りが進められています。
単純な記録ではなく村民を巻き込んだ「アート」にしようというのが特徴です。
「かわいいじゃん」
加藤哲夫さん(70)も自ら応募し村民カメラマンになりました。
村民カメラマン・加藤哲夫さん:
「9年前に移住してきたんですけど、当初から歌舞伎が大好きで参加しています。(フィルム撮影は)一発勝負、緊張しています」
写真家・秦雅則さん:
「(役者と)関係性が密で、彼らが撮る写真は面白いし、プロの僕が撮れるものではない写真がいっぱい出てきて、それが一番魅力的だなと」
2週間後。
石川かおりさん:
「もうちょっと、その辺ですか?」
この日、秦さんと加藤さんは役者を「単体」で撮影することに。
モデルは若手の石川かおりさん(32)です。
大鹿歌舞伎の役者・石川かおりさん:
「これ(黒子)を着て、やってもらいたいポーズがあるからという話は聞きました。(どういう狙いなんでしょう?)わかりません!(笑)」
秦さんが二人に見せたのは歌舞伎の最終リハーサルで見せた役者たちの姿。
これらを「黒子」となった石川さんに再現してもらいます。
「撮ってみますね」
写真家・秦雅則さん:
「次は、シンプルなこれを撮ってもらいましょう」
村民カメラマン・加藤哲夫さん:
「指を離してください、そうそう、いいかな」
写真家・秦雅則さん:
「いいですね。ちょっと下から」
なぜ「黒子」なのか。この段階では石川さんも加藤さんもわかっていませんでした。
村民カメラマン・加藤哲夫さん:
「なんか不思議な感じがします。(どうなると思います?)重なるのかな?影になる?」
秦さんが村で撮影を始めてから半年余り。
3月、村の資料館で写真展を開きました。
写真集に取り掛かる前に、これまでの撮影内容を住民に見てもらうことに。
役者の村民:
「フィルムが古いってことで、色が違うところもあっていいんじゃないかな、それがかえって」
並べられたのは現像した5000枚から厳選した250枚。いずれも歌舞伎に携わる村民たちの「ラフな姿」です。
写真家・秦雅則さん:
「ぼくが気に入ってるのは、村長さんがメイクを落として、グレーになってるんですけど、顔がゾンビみたい。(舞台)終えて、顔ぐちゃぐちゃにオイルで溶かす時に声かけて『今いいですか』って」
役者でもある熊谷英俊村長のユニークな姿―。
役者以外の写真も。
飴をなめている女の子はー。
写真家・秦雅則さん:
「歌舞伎をしたいらしいんですけど、年齢的に自分はできないと。でも好きだから付いてきて、裏方の仕事も見てたんですね。これからをきっと担う子なんでしょうから」
あの「黒子」の写真も。
なんだか奇妙な雰囲気です。
撮影した加藤さんも初めて作品を見ます。
秦さんは、黒子を撮った理由を「フィクションの入り口にしたかったからだ」と明かしました。
写真家・秦雅則さん:
「ドキュメンタリーで大鹿歌舞伎を撮るという形ではないので、ドキュメンタリーとフィクションが混じっていくというシーンの中で、黒子は本来の歌舞伎にも出演しているけど、役者ではない、裏方。それに着目して主役にしていくことからフィクションが始まるという」
村民カメラマン・加藤哲夫さん:
「黒子は『見える』けど『見えない』っていうことなんで、そういうことを考えると、『見えない』相手を撮ったということで面白かったですね」
現実とフィクションを織り交ぜたユーモラスな世界観。
それを写真集に取り入れます。
黒子として協力した石川さんも会場へ。
一緒に来たのは長く歌舞伎に携わってきた祖父・片桐登さん(94)です。
大鹿歌舞伎の役者・石川かおりさん:
「一人一人の人間味がよく伝わるような感じがして、写真自体がおもしろい。歌舞伎に興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思いました」
長く歌舞伎に携わった・片桐登さん(94):
「歌舞伎がこの村を支えておると思う。それが永遠に残っていくように(孫の石川さんや若手が)一生懸命やってくれているんです」
この日、地元の小学4年生7人による歌舞伎が上演されました。
授業で学んできた演目のお披露目です。
加藤さん、秦さんも再びカメラマンに―。
写真家・秦雅則さん:
「歴史も深く、価値の高い、みたいな印象があったんですけど、お祭りの一環としてあるんだなっていうのを知れて、楽しもうっていう気持ちでやってらっしゃるので、昔の歌舞伎ができたころのパンキッシュな精神が残っているなと感じます。歌舞伎自体が若い人たちがすごく興味がある分野でもないので、ちょっと見てみようかなと思わせるような内容とかタイトル、表紙を作っていけたら」