特集は若者に人気のスケートボードです。娘と一緒に練習し大会にも出場しながらスケートボードができる環境を研究する異色の大学講師がいます。「スケボー」にたどり着いた理由を取材しました。
アメリカ生まれでストリートカルチャーの中で育まれたスケートボード。
東京オリンピックで正式種目に採用され、スポーツとしても若者を中心に人気です。
長野市の専用施設では、この日も子どもたちや若者が練習に励んでいました。
その中でー。
2枚のボードに乗ってクルクルと回転する女性が。
長野市の小松仁美さん(42)です。
小松仁美さん:
「あまり1枚上手じゃなくて、練習をしていた時に『1枚ができなければ2枚があるじゃないか』と」
通常のスケートボードと違い、小松さんが練習しているのは「ダフィー」と呼ばれる2枚の板に乗って滑るスタイル。
長女で中学2年生の美智さんと一緒に週2日程度、練習に励んでいます。
実は二人とも技術は趣味の域を越えています。
二人とも国内外の大会に出場していて、オリンピック種目とは別の平らな床で自由に滑る種目「フリースタイル」で競い合っています。
年齢や板の枚数は関係がなく、制限時間の中で音楽に合わせた滑りを披露。技術や構成、芸術点を審査されます。
小松さんは2023年、カナダで開かれた大会に出場。9人中7位でしたが、最も滑らかな演技だったとして「特別賞」を受賞しました。
小松仁美さん:
「面白いです、すごく楽しいです。(簡単に)乗れそうじゃないですか、乗れないんですよ」
実は小松さんには競技者とは別の「顔」があります。
2022年から長野市の清泉女学院短期大学幼児教育科の講師を務めています。
専門は社会学で長く研究してきたのは、ストリートチルドレンです。
メキシコの子どもたちー。
清泉女学院短大・小松仁美さん:
「HIVエイズで亡くなるような、最期の看取りの時期に入っている子どもたちとか、汚水に糞便とか尿とか食べ残しがあって、ニオイもものすごく、その中で子どもたちが昼間なのに薄暗い排水管のようなところで暮らしている。『あ、このままではいけないな』と。ストリートチルドレンがいない世界になっていくのかチャレンジしたくて、支援者としてキャリアを積みながら現地と日本を行き来して研究を続けてきました」
現地では子どもたちの保護やサポートも実践。
こうした経験から、短大では子どもたちの居場所づくりやサポートの仕方を教えています。
ただ研究室にはたくさんのボードがー。
小松さんはスケートボードの競技者でもあり研究者でもあります。
先に始めたのは長女の美智さん。
当時、住んでいたのは千葉県で、公園で滑る若者たちを見て、親として少し心配になり自身も始めるようになったと言います。
小松仁美さん:
「私が始めた当時も、おそらく今も、決して柄の良くない方々。金髪、チャラチャラというような方が少なくない中で、うちは女の子というのもあって、これから続けていくのにこのお兄さんたちに託しましたとできるのかなと思って」
その後、一緒に練習し若者たちと接する中で研究者としての目で若者たちとスケートボードを捉えるようになります。
清泉女学院短大・小松仁美さん:
「おそらく社会的に生きづらさを抱えているだろう人とか、粗野な部分しか見てもらえない人がすごく多いので、そうじゃなくて元気がいい、でも困っていることがある。じゃあ一緒に解決して粗野じゃないところも見ていって一緒に地域の中で暮らしていける。居場所がない人がそこで自分が居られる場所があっていいんだよみたいな」
若者たちの生き生きと滑る姿やスケートボードを通じて関係を築いていく様子から「居場所」として専用施設の必要性を感じた小松さん。
整備する際の指針になればと、現在、全国各地の施設のデータ化に取り組んでいます。
これまでに全国180カ所を巡り、実際に自分で滑って安全性などを確認しています。
清泉女学院短大・小松仁美さん:
「中学校、小学校区にひとつ、歩いて子どもたちがいける場所に、すごく小さなもので構わないので滑れる場所があればいいなって」
研究を続ける母親を美智さんはどう見ているのでしょうか。
長女・美智さん:
「親の研究は正直興味ないです。車とかで連れてきてくれるからそれはうれしいけど。でもめんどくさいときもある、親は」
小松さんは「ダフィー」を始めて競技にものめり込み、親子で大会に出場するようになりました。
清泉女学院短大・小松仁美さん:
「そもそも大会に出始めた理由が、じゃあ(私が)ドンケツ、(娘が)下から2番目と。であれば一緒にがんばっていこうということで(娘が)続けられるかなと思って始めて」
実は千葉から長野に職を求めて移住したのも「専用施設が近くにある」ことが大きな理由でした。
二人は今や良きライバルです。
長女・美智さん:
「まずウチがミスんない限り、ウチの親はウチに勝てないから」
小松仁美さん:
「わかんないよ、万が一があるじゃん」
小松仁美さん:
「今後の目標、勝つぞ、一回だけは勝つぞ」
競技者として研究者として、そして母として、スケードボードを考え実践する日々が続きます。
清泉女学院短大・小松仁美さん:
「うちの子どもだけじゃなくて、他の子どもたちも含めていい環境にしていきたい。いつでもやりたいなと思ったらできる環境がある。やめたいなと思ったら、『そこまでやったのに』とか言われずにやめられるという。子どもたちが気兼ねなくできる環境をつくっていきたい」