【ミャンマー】劣勢の中で国威発揚パレード[政治] 国軍、シャン州一斉攻撃から5カ月

国軍記念日の軍事パレード会場に向けて行進する部隊=27日、ミャンマー・ネピドー(NNA)

ミャンマー軍事政権は27日、首都ネピドーで国軍記念日の軍事パレードを開いた。くしくも、少数民族武装勢力が北東部シャン州北部で一斉攻撃を仕掛けた「作戦1027」開始からちょうど5カ月がたった日の開催となった。現地では、この作戦が引き金となって各地で武力衝突が激化。国軍は劣勢に立たされており、国威発揚を図ろうとしているが、体勢の立て直しは厳しい状況だ。【小故島弘善】

軍事パレードは国軍の威信を示す絶好の機会だが、それが揺らいでいる。軍事パレードは午前中の開催が恒例となっているが、今回は異例の夕方以降の実施。夕日が沈みゆく中で各部隊の行進、歩兵部隊や戦闘機の誇示などが始まった。

「兄弟同盟」を構成する◇ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)◇タアン民族解放軍(TNLA)◇アラカン軍(AA)——の三つの少数民族武装勢力が昨年10月27日に「作戦1027」を決行してから、国軍は中国国境や西部などの町の支配権を立て続けに失っている。今年2月には成立から10年以上にわたり放置していた人民兵役法を復活、発効。4月以降に徴兵制を実施して人員の増強を図ろうとしている。

発端となったシャン州北部では、ミャンマー民族民主同盟軍がコーカン自治区を「奪還」した。タアン民族解放軍はパラウン自治区(ナムサン、マントンの2郡区)と近隣の主要都市を掌握し、中国往来の主要玄関口であるムセ付近に迫った。中国国境沿いでは1月、同国政府の仲介で国軍と兄弟同盟が一時停戦に合意したものの、軍政が今月初旬にTNLAが支配する3郡区(ナムサン、マントン、ナムトゥ)を戒厳令下に置くと発表。両者の緊張は続いている。

シャン州は中国との国境貿易で重要な役割を果たしてきたが、軍政は「作戦1027」後、同州内の交易ルートの支配権をほぼ失った。コーカン自治区内の主要国境ゲートがあるチンシュエホーの利用には、MNDAAとの交渉が必要になった。南側には、「不可侵領域」であるワ州連合軍(UWSA)や、民族民主同盟軍(NDAA、編注:ミャンマー民族民主同盟軍とは別の勢力)が支配する地域が広がる。

国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、情勢の安定化と経済発展を共に実現することの重要性を繰り返し主張しているが、向かい風ばかりが吹く状況だ。

■アラカン軍「独立後最悪の状況」

西部情勢はより緊迫している。アラカン軍は昨年11月、国軍との停戦を破って攻撃を開始し、北西部チン州パレワ、西部ラカイン州北部の各郡区に侵攻した。両勢力の激しい攻防は現在も続いている。

同勢力の政治組織「アラカン統一連盟(ULA)」は25日、軍政が政治・外交上の危機に直面しており、ミャンマーが「独立後最悪の状況にある」との考えを表明した。国軍が故意に市民を標的にして空爆やインフラ破壊などを強行していると非難した。

ULAは「テロ組織である軍政側のいかなる組織・個人もテロリストと見なして攻撃する」とも表明した。軍政が徴兵制の実施を発表してから、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの若者が強制的に国軍の活動に従事させられていると主張。ロヒンギャはラカイン州に多く住むが、声明ではバングラデシュからの移民だとする呼称「ベンガリ」を用いている。アラカン軍がラカイン州唯一の軍事組織であるとの立場も示し、国軍や他の武装組織をけん制した。

州内には港湾開発などでインドが支援するシットウェ、中国が支援するチャウピューが存在する。紛争によりインフラ開発の停滞が懸念される中、ULAはラカイン州を掌握して情勢の安定化に努めるとしており、海外からの投資を歓迎すると表明した。

国軍は2021年2月1日のクーデターで実権を掌握した。クーデター後は民主派指導者アウンサンスーチー氏らを拘束し、軍政に反発する市民を弾圧。一方、長年の脅威である各地の少数民族武装勢力に対しては停戦を呼びかけて懐柔を図ろうとしてきたが、紛争が絶えない中で各勢力が暴力への依存を深めている。国軍が徴兵制の実施を発表したことは強硬路線を崩さない姿勢を改めて印象付けた。

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