4世代つなぐ「ふるさとの誇り」 校歌は地域の“共通言語” 一体感育む役割も担う

小学生として最後の校歌を歌う児童=長崎市茂木町、茂木小

 ♪たちばなの 波打つ ところ 若菜川 すみたるほとり♪
 3月18日、長崎市立茂木小学校。卒業式の終盤、6年生24人が校歌を歌い上げた。入学以来、何度も歌ってきたが、小学生としてはこの日が最後。式典後、池田ひつきさん(12)は「茂木のことがいっぱいの歌詞が好き。(最後で)少し寂しかった」と話した。
 同校は今年、創立150年を迎える。池田さんの家族は父の大輔さん(43)をはじめ、祖父、曽祖父、曽祖母も同校出身。同校の120周年記念誌によると、校歌の制定は1934(昭和9)年とされており、実に4世代が歌い継いできたことになる。卒業式に参列した大輔さんは、同じ学びやを巣立つ娘の姿に「感慨深いですね」と照れくさそうに成長を喜んだ。
 「茂木ではなぜか校歌は人気だった。外で遊んでいる時も、風呂場でも、大声で歌っていた」。大輔さんはそんな少年時代の情景を思い出した。世代を超え、地域の多くの人が口ずさめる校歌とは、いったい何なのだろうか。大輔さんは言った。「ふるさとの誇りみたいなものでしょうか」
 同市立茂木中を卒業した山口要さん(15)は、一つ屋根の下に4世代8人で暮らす。このうち7人は茂木小の卒業生だ。
 校歌の話を聞くため、山口さん宅を訪ねた。曽祖父、睦夫さん(87)の記憶を確かめようと、周りの家族が「♪たちばなの~」と始めると、「♪波打つ~」と続いた。「自然に(歌詞が)出てきた」と睦夫さん。家の中に笑いが広がった。
 母、まどかさん(41)は息子の部活動の集まりで、締めに校歌を歌う場面があるといい「親も(茂木小・中の)卒業生が多く、一緒に歌いたくなるんでしょうね」。核家族化が進む中、茂木地区ではまだ「地域で子どもを育てる」という色も濃く、校歌はそんな地域の“共通言語”として、一体感を育む役割も担っている。
 脈々と人々の心や地域をつないできた校歌は、教師にとっても特別なものだ。
 この春に退職する同市立諏訪小の山﨑直人校長(60)は毎年、6年生に「校歌の授業」を行い、歌詞に込められた意味を考える機会を設けてきた。「同じ『文化』『歴史』という歌詞でも学校ごとに表現している内容は違う。本当の意味を知ることで、より地域への愛着も湧く」
 新型コロナウイルス禍では、当たり前に歌っていた校歌が「斉唱」から「静聴」になった時も。そんな背景もあり、今年の卒業生は「あまり上手に歌えないから」と申し出て、練習量を増やし、卒業式で立派な三部合唱を響かせた。「校歌を大切に思う気持ちが伝わってきた」。山﨑校長の笑みに誇らしさがにじんだ。
 各校の古い校歌の中には戦時中を想起させる歌詞も残る。山﨑校長は「それを含めて歴史的な財産」とうなずき、「命のバトンをつないできた歴史の上に今がある。今を大切に生きて、未来をつくっていってほしい」と子どもたちへの言葉を選んだ。

© 株式会社長崎新聞社