「夭折の画家」の作品を集めたコレクター 30年間探し求めた作品などを展示「作家に対する責任を果たしたい」【岡山】 

岡山県鏡野町に、熱心な愛好家が足を運ぶ「知る人ぞ知る美術館」があります。展示されている作品を制作した芸術家たちにはある共通点が…館長の男性は数十年をかけ集めたコレクションの数々を「作家に対しての責任を果たしたい」との思いから展示しています。

半生をかけて集めた貴重なコレクションを展示

(記者)「総額どれぐらいかかっているんですか?」

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「家庭の事情がいろいろありまして、ちょっと言えないですね…」

美作三湯の一つ奥津温泉にあるかがみの近代美術館です。

ここには館長で美術コレクターの辻󠄀本高廣さんが半生をかけて集めた貴重なコレクションの数々が展示されています。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「四谷十三雄さんの作品です。この方は25歳の時に初個展をすることになりまして、初個展の時って案内のはがきを刷りますけれど、それを業者に受け取りに行って横断歩道を歩いていてトラックにはねられ亡くなられた。初個展が遺作展になってしまったと。「そのまま生き続けていたらどんな作家になっていたんだろう」そういう思いを巡らしながらいつも作品を見ています」

実は辻󠄀本さんは若くしてこの世を去った「夭折(ようせつ)の画家」コレクターなのです。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「最初のうちは美術館に展示されているような有名な画家に興味を持ちまして…」

学生時代から芸術作品が好きだったという辻󠄀本さん。出身地の奈良県で金融関係の仕事に就いた後憧れの作家の作品を購入するコレクター人生が始まりました。

高い絵画は買えずスケッチなどが中心でしたが手元に巨匠の作品があることが純粋に嬉しかったといいます。しかし次第に違和感を抱くようになりました。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「なんかちょっと違うなと。給料をはたいて有名な方の小さな作品を買っても、美術館へ行けば大きな作品がみられると。なにも私が無理して買うのは違うなと」

たまたま訪れた展覧会で衝撃が走った

そんなある日、たまたま訪れた展覧会で衝撃が走りました。脳腫瘍により30歳でこの世を去った画家・野田英夫さんの作品メリーゴーラウンドです。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「最後は目も見えなくなって、まぶたが垂れ下がってくるのを絆創膏で止めて描き続けられたと。そういうことを知って画を見たら楽しそうに子どもたちがメリーゴーラウンンドに乗っている絵なんですけれども逆に楽しいはずの子どもたちの顔が悲しく見えてくる。

やっぱり絵は『人を写す鏡』というか。『やっぱりいつまでも自分の側に置きたい』そんな絵をこれからは求めていこうと」

美術館にはその後、手に入れた野田さんのデッサンが展示されています。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「私も毎日見ていて、当時も思い出すし。野田英夫さんを偲べる」

こちらはそんな辻󠄀本館長が大切にしている思いを象徴する作品です。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「紙がシワよってボロボロなんです。『価値が無い』ということで粗末に扱われたと。要するにこの方無名でなくなった作家さんなんです」

作品数がきわめて少ない幻の作家。何とか手に入れようと30年間も探し求めました。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「『俺のところにやっと来たか』という愛しい気分になりました。『これを側に置いて暮らせる』そういう嬉しさがあった」

人生も後半に差し掛かり「ある使命感」が…

これまで収集した作品はおよそ1000点に及びます。そんな辻󠄀本さん。人生も後半に差し掛かると「ある使命感」を感じるようになりました。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「『集めた責任があるんじゃないか』と思いこむようになりまして。『作家に対する責任を果たしたい』とそれが一番強い気持ちだった」

コレクター人生の集大成として美術館の開業を決意した辻󠄀本さん。たまたま紹介され気に入ったという奥津の古民家を1年かけてリフォーム。

務めていた会社を辞め6年前にかがみの近代美術館をオープンしました。以来、奈良の自宅と鏡野町を行き来しながら全国から訪れる客に『夭折の画家』の魅力を伝えています。

(奥津温泉の宿泊客)
「(若くして)亡くなられた方がほとんどだと思うんですけれども、どういった目で今僕たちが見ている日常を感じていたのかなというのが伝わってきて非常に面白かった」

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「『お客さんの方がすごい』という方がいっぱいおられる。お客さんの解説を盗ませていただいたりとか…」

奥津温泉周辺をアートで彩る「OKUTSU芸術祭」を主催

地域活性化に貢献しようと5年前から奥津温泉周辺をアートで彩るOKUTSU芸術祭も主催。

さらに昨年からは倉敷芸術科学大学の非常勤講師を務めるなど芸術に対する知識を活かし幅広い活動を行っています。

(かがみの近代美術館 辻󠄀本高廣館長)
「僕の使命は作家を再評価するということもあるし、ここ奥津温泉に自分が来た以上は価値を高める。その思いは強いですよ」

ライフワークだった作品の購入をやめ所蔵する作家の魅力発進と地域活性化に全力を注ぐ辻󠄀本さん。自然豊かな鏡野町で第2の人生を満喫しています。

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