世界遺産・白神山地のブナ林、温室効果ガスをたっぷり吸収 良好な成長環境で他地域の倍以上も

白神山地の山中にそびえ立つ高さ34メートルの気象観測塔「白神フラックスタワー」(石田准教授提供)

 地球温暖化が森林に及ぼす影響や、森林がどれくらいの量の二酸化炭素(CO2)を吸収しているのかを観測する研究が白神山地で行われている。研究の中心にいるのは、弘前大学大学院理工学研究科の石田祐宣(さちのぶ)准教授(53)だ。気象学が専門の石田准教授は、山中に設置した高さ34メートルの気象観測塔「白神フラックスタワー」による測定を10年以上続け、白神山地のブナ林は年間で、他の地域のブナ林の倍以上のCO2を実質的に吸収していることを明らかにした。一方で、温暖化によって実質的な吸収量は将来的に減少する可能性にも言及した。

 世界自然遺産に登録された1990年代、原生的なブナ林を中心とした白神山地の貴重な生態系は、冷涼湿潤な気候や多雨・多雪などの環境が大きく関わると考えられたが、気象データそのものは10キロ以上離れた平地や沿岸部にある気象庁の観測点が参考値で、実態をつかめていなかった。

 そこで弘大は、2008年にタワーを遺産地域に近い、原生的なブナの割合が多い森林内に建設。石田准教授らは、森林から突き出す高さのタワー上部に取り付けた赤外線分析計を使って、白神中心部の降水量やブナ林のCO2収支などを調べた。

 森林の木々は、葉の光合成によって温室効果ガスであるCO2を吸収し、木自身や土壌も呼吸をしてCO2をはき出す。白神の場合、CO2の吸収量と排出量の差である実質的な「正味吸収量」は、1平方メートル当たり約1.3キロだった。これは林野庁が、木の高さや幹回りからCO2吸収量を算出する方法で別の地域の樹齢80年ほどのブナ林を試算した値の2倍以上。石田准教授は「白神のブナ林が良好な成長環境だと示している」と解説した。

 もう一つ特筆すべき点がある。森林は樹齢80年前後が成長の盛りで、より多くのCO2を吸収する。一方、老齢になると吸収が鈍化すると考えられていた。「白神には樹齢100年以上の木がたくさんあるが、よくCO2を吸収している。老齢なブナ林も適切な環境下では、CO2を多く吸収するということを白神は示している」

 一方、同じ8月でも平均気温が高かった年は、正味吸収量が減少していた。光合成による吸収量の増加量より、木が高温で活性化したり、土壌有機物の分解が促進されたりして、はき出す量が増えるためだと考えられるという。石田准教授は「温暖化によって木々のCO2吸収量が減ると考えられる。長期間、複数のサンプルを調べて、しっかり解析を進めたい」と語った。

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