【ブギウギ】羽鳥(草彅剛)とスズ子(趣里)の対照的なコントラストを二人の演技力で見せるドラマだった

「ブギウギ」第126回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。毎朝、スズ子に元気をもらえた「ブギウギ」最終週のレビューです。より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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いよいよグランドフィナーレ。趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の最終週「世紀のうた 心のうた」が放送された。

USK(梅丸少女歌劇団)時代の先輩・大和礼子(蒼井優)の血を受け継ぐという運命的な存在として現れた新星歌手・水城アユミ(このか)に刺激を受け、年末の「男女歌合戦」のステージでその存在感を見せつけ、雑誌にも「ブギの女王復活」と報じられたスズ子であったが、やり切った思いは結局歌手引退への思いをゆるぎないものとしたのだった。

同期でありライバル的存在だった茨田りつ子(菊地凛子)は、寂しそうでありながらもスズ子の思いを理解する。しかし羽鳥善一(草彅剛)は動揺を隠せずりつ子に相談し、スズ子に向かって歌を捨てたら絶縁すると冷たく言い放つ。それは悲しみとショックから出た言葉であることは間違いない。

「ブギウギ」はとにかく羽鳥善一と福来スズ子の関係性を二人の演技力で見せるドラマだった。ストレートな感情表現を表情に乗せるスズ子と、決して大袈裟でなく淡々としたトーンを保ちながら喜怒哀楽を感じさせる羽鳥の表現が対照的なコントラストをみせてくれた。その絆の強さは、りつ子に「あの子(スズ子)の歌を作っている時が一番幸せそうだった」、羽鳥の妻・麻里(市川美和子)にも「結局のところ羽鳥はあなたに捨てられるのが怖いのかもしれないわね」と、どこか嫉妬混じりに言われるほどである。

しかし、当の羽鳥こそがスズ子に嫉妬していたと正直に打ち明け、動揺してしまったことを詫び、二人の間にできた大きなわだかまりは解けた。二人の絆が強すぎて、愛助(水上恒司)の存在が少々薄まったところは仕方ないのだろうか。

スズ子の引退は当然世間にも惜しまれる。引退会見の場で一番寂しそうにしていたのがドラマ内の各エピソードの火付け役のような存在とも言えるゴシップ記者・鮫島(みのすけ)であることも、結局鮫島のモチベーションも、スズ子の存在あってこそということがわかりやすく表現されていた。

そしてみんなのためにもと羽鳥が背中を押し、「さよならコンサート」が開催される。要所要所で披露される歌唱パフォーマンスの演出の見事さは、このドラマの要だった。歌劇団時代の「桜咲く国」、「スウィングの女王」の名を決定づけた「ラッパと娘」、出征した弟への思いをのせた「大空の弟」、そして「東京ブギウギ」「ジャングル・ブギー」「買い物ブギ」というブギの名曲の数々……どれもその圧巻のパフォーマンスを思い出すことでドラマのターニングポイントも鮮やかに蘇る。

「ブギウギ」第126回より(C)NHK
「ブギウギ」第126回より(C)NHK

最終回ではスズ子のキャリアの集大成とも言える「さよならコンサート」のパフォーマンスをたっぷりと見せてくれた。最終回のパフォーマンスは生演奏での収録、指揮をつとめた人物は、羽鳥のモデルとなった服部良一氏の孫であり、ドラマの音楽を担当した服部隆之氏であることも話題を集めた。

楽屋や客席には橘先輩(翼和季)やUSK時代の林部長(橋本じゅん)、後輩の秋山(伊藤六花)若手時代を支えてくれた坂口(黒田有)、山下(近藤芳正)、おミネさん(田中麗奈)ら懐かしい顔ぶれが続々登場、幼馴染のタイ子(藤間爽子)や元付き人の小夜(富田望生)からは手紙が届き、屋台のおでん屋や下宿屋の主人夫婦の名が記された花なども登場し、なんらかの形で皆健在であることが伝えられる。

これまでもりつ子とのライバル関係の描き方など少年漫画的表現を指摘してきたが、これもまた、スポ根漫画の最後の試合にかつてのライバルや師匠たちがつめかけるシーンを思わず連想してしまったとことと、もうひとつ、過去のキャラが急に思い出されたように再登場することもたびたび指摘したが、その集大成のようでもあった。

歌唱パフォーマンスが鮮烈な印象を残したドラマらしく、晩年を描かずに「さよならコンサート」でパッと華やかに締めるのはぴったりなのかもしれない。実際に最後のパフォーマンスとして披露された生演奏での「東京ブギウギ」も、全身で歌う喜びを表現するスズ子の表現力、やはり大袈裟ではないのに心の底から満足そうな雰囲気が伝わる羽鳥、すべては二人のこの表情を見せるためのドラマだったのかもしれないというほどの見事なものだった。

ただ、ステージでの熱唱を終えた最後にステージに指先でキスをしたのは、山口百恵の引退コンサート、それこそ趣里の母である伊藤蘭がメンバーだったキャンディーズの解散コンサートを重ね合わせて見てもらおう感を感じたのは、さすがに過剰だったかもしれない。

戦前戦後の歌謡界を舞台にしたドラマなだけに、細かな部分で粗さが気になるところもあったが、趣里と草彅の演技力、そして数々の名パフォーマンス。それだけで十分印象に残るドラマだった。

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