特集は食堂の再出発です。火事で営業できずにいた長野市の食堂が、3月6日、2年ぶりに営業を再開。変わらぬ味を求めて多くの客が訪れました。再起の裏には客の励ましと家族の支え合いがありました。
6日、営業を再開した長野市妻科の食堂「文佳」。
大きなチキンカツに甘めのソースをかけた「チキンカツライス」が看板メニューです。
近くに勤務の男性:
「ん~、変わらずとてもおいしいです」
切り盛りするのは荒木せつ子さん(74)と長女の佳さん(43)、次女の陽さん(41)、三女の麗さん(36)の3姉妹。
家族で困難を乗り越えての再出発です。
三女・麗さん:
「来てくれたこともうれしいですし、帰るときに『この味だったよ、おいしかったよ』『変わってないよ』と言ってくれたのが涙が出るくらいうれしかった」
「文佳」がオープンしたのは1975年・昭和50年。
大学を出てから家業の商店を手伝っていた文彦さんが父の勧めで開きました。
荒木文彦さん:
「親父から『そんなことしているなら、食堂でもやったらどうか』と。瞬間的に『やる』って言ってしまったんですよ」
夫婦2人で営む食堂。
地域に根付く大きな要因となったのが「出前の多さ」です。
近くの県庁や裁判所が「得意先」でした。
荒木文彦さん(当時53):
「(目が回りそうですね?)ほんとに、くたくた。9歳の女の子が一番下だから、頑張ります」
やがて両親を見て育った3姉妹が食堂を支えるように。
次女・陽さん(2021年取材):
「父と母が、自分たちが子どもの頃に育ててくれたことを、恩返しじゃないですけど、今度は自分たちができれば」
助け合う家族。
3年前は家族全員で三女・麗さんの娘2人の子守りも。
県庁への出前は文彦さんから次女・陽さんにバトンタッチ。
姪の鞠璃ちゃんを抱っこしながら配達―。
地域の人々の胃袋を満たしてきた「文佳」でしたが2年前予期せぬ困難に直面しました。
近くで火災が発生。「文佳」の建物にも延焼し営業休止を余儀なくされたのです。
荒木せつ子さん:
「まさか自分たちがこういう目に遭うとは、その時は見てるだけで、何もね」
三女・麗さん:
「真っ白になってしまって、正直最初は再建なんてできないんじゃないかなって思って、ずっと不安でしたね」
調理や出前で活躍していた文彦さんも体力が衰え、一時は閉店も考えたと言います。
それを踏みとどまったのはー。
次女・陽さん:
「『待ってるよ』っていう声がものすごくて、それを受けて『やらなきゃ』『待っている人がいるんだ』と、みんな『やろう、やるしかないよね』と」
2023年春、店舗兼住宅の再建工事がスタートし年末には完成を迎えました。
なるべく以前の雰囲気を残そうと、被害を免れたテーブルやイスを再び使うことにしました。
長く継ぎ足して使ってきたチキンカツライスのソースは消火活動で使えなくなり、一から作り直しました。
次女・陽さん:
「決められた分量は覚えていたんで、あとは味。みんなの舌、覚えていた舌の感覚で『この味だね』って」
次女・陽さん:(出前の注文を受ける):
「はい、文佳です」
店舗での営業に先立ち1月中旬からは「出前」を再開。
文彦さんが働けない分を家族みんなでカバーすることにしました。
次女・陽さん:
「チキンカツライスが2つ」
瑠璃ちゃん(6):
「1階のどこ?」
次女・陽さん:
「議会棟」
瑠璃ちゃん(6):
「議会棟か~」
この日は、三女・麗さんの娘2人もお手伝いに。
県庁への出前で抱っこされていた鞠璃ちゃんは、こんなに大きくなりました。
この日は県庁の5つの部署から注文が入りました。
次女・陽さん:
「今まで当たり前だったのに2年間空いちゃって、出前できるのがうれしかったですね」
瑠璃ちゃん(6):
「瑠璃ちゃん0歳のころから(出前に)行ってるんだよ」
姪っ子を連れて陽さんが配達に回ります。
瑠璃ちゃんと鞠璃ちゃん:
「ごはん持ってきましたよ~」
10分程度で配達を終える―。
次女・陽さん:
「(姪の)成長を、こんなに大きくなったのって驚かれる方もいて、自分たちも帰ってきたって感じしますし、待っていてくれましたし、私たちもそれにこたえて頑張らなきゃという気持ちに」
三女・麗さん:
「こっちからラーメン?」
出前を終えると、食堂再開の準備。
食堂再開に向けメニューの「短冊」を取り付ける―。
せつ子さん:
「頑張らなきゃね…待っててくださるお客さまがいて」
迎えた再オープン当日。
午前11時営業開始―。
常連客:
「おめでとうございます」
「ありがとうございます、お待ちしていました」
待ちわびていた客がやってきました。
「お待たせしました、あんかけ焼きそばです」
約40年前から通う:
「やっぱ地元だから、懐かしいからね。味もすごくいいですよ」
子ども2人もお手伝い―。
この日も一番人気は看板メニューのチキンカツライスでした。
地元客:
「うまいね。よかった、またこれ食えるようになって、うれしいですわ」
10年以上通う:
「ほっとしました。ずっと待っていたので、これが食べたかったんです」
常連客が次々とー。
「お久しぶりです」
「おめでとうございます」
10年以上通う:
「楽しみに待ってたんです。皆さん元気で再開できたからよかったです」
家族で支え合って新たな一歩を踏み出した「文佳」。
来年、創業50年の節目を迎えます。
次女・陽さん:
「今まで両親がやってきたものを、ここで止めちゃいけないなって。私たち姉妹3人で頑張ってやっていこうという気持ちが強い」
文佳・荒木せつ子さん:
「この人たち(3姉妹)がいてくれなかったらお店成り立たないし、2人のちびちゃんに元気もらってますし、迷惑かけてしまったお客さまいると思うんですけど、またぜひ来ていただきたいですね」