神戸の名物菓子「自分で焼けたら」神戸で初の女性瓦せんべい職人に 子育てしながら修業3年、念願の店開く

新店で野球カステラを焼く和田絵三子さん=神戸市兵庫区中道通7

 神戸の名物菓子「瓦せんべい」と「野球カステラ」づくりの修業を積んだ女性が先月、地元の神戸市兵庫区に念願の店を開いた。店主の和田絵三子さん(44)は、未就学の2児を育てながら神戸のベテラン職人に教わり、技を磨いた。神戸煎餅協会の岸本芳宣代表理事(55)によると、神戸で初の女性瓦せんべい職人という。(大高 碧、劉 楓音)

 市営地下鉄上沢駅から徒歩3分の大通り沿いにある「手焼き煎餅えみり堂」(神戸市兵庫区中道通7)。白を基調とした約25平方メートルの店に入ると、すぐ正面に和田さんがせんべいを焼く「焼き場」がある。

 店内には甘い香りが広がり、店の焼き印が押された瓦せんべいや、バット、グラブなど野球の道具をかたどった野球カステラが並ぶ。

 神戸で生まれ育った和田さんにとって、瓦せんべいと野球カステラは、長く親しんだ味だ。「子どものころから食べていたお菓子を自分で焼けたら面白い」と考えるようになった。

 さらに、春から小学生になる6歳の娘と3歳の息子に「いってらっしゃい」「ただいま」を言える環境を整えたい思いもあったという。

 和田さんの姉、堀内真由美さん(49)が、創業100年余りの「手焼き煎餅おおたに」(同市中央区割塚通7)の3代目大谷芳弘さん(75)と知り合いだったこともあり、2021年5月から修業をさせてもらうことになった。 ### ■「失敗してもいい」

 小麦粉と砂糖、卵などを練り、型に流し込んでガスバーナーで焼く。配合や火加減は、当日の気温と湿度に合わせて調整する。重い焼き型を火から上げるタイミングが重要で、形や色が変われば売り物にならなくなってしまう。

 「失敗してもたくさん焼いたらいい」。大谷さんは優しく、教える相手を型にはめようとしない人だった。修業中の雰囲気は終始和やかで、ラジオを聞き、話をしながら学んだ。

 大谷さんは、床にあぐらをかいて焼き型を回す従来の方式にとらわれず、いすを自作して腰の負担を軽減しており、和田さんも踏襲した。子育てをしながら約3年間、週1、2回のペースで学んだ。

 昨秋、師から独立を勧められ、本格的に準備を始めた。大谷さんはじめ多くの先輩職人が様子を見に訪れ、知恵を授けてくれた。 ### ■焼き型を無償提供

 こんな助けもあった。焼き型は現在、手がける職人が少なく、新たに購入すると1丁15万円ほどかかり、採算が取れない。

 力を貸してくれたのが「焼き型バンク」だった。「野球カステラ愛好会」の志方功一代表(46)が、神戸煎餅協会の協力を得て立ち上げた制度だ。

 以前、神戸市役所で地域課題を解決する「つなぐ課」(当時)に勤めていた志方さんは、廃業したせんべい店やアンティークショップから焼き型や焼き印、バーナーなどを買い集めた。それらを協会が買い上げ、新たに独立する職人に無償で提供することにした。

 先輩職人やバンクの支えを受け、和田さんは先月中旬、堀内さんに手伝ってもらい、えみり堂をオープンさせた。「昔ながらの味を守りつつ、新しいことにもチャレンジしたい」と話している。

 日曜、祝日定休。午前10時~午後5時。瓦せんべいは1袋5枚300円から、野球カステラは1袋350円から。手焼き煎餅えみり堂TEL090.9877.8360

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