映画「オッペンハイマー」が被爆地・広島で見られる理由 「映画だけでは描ききれない原爆の恐ろしさを伝えたい」 映画をきっかけに広がる思い

アカデミー賞の7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」が全国公開されて4日で1週間です。原爆を開発した物理学者を描き、日本でも話題となっていますが、特に被爆地・広島と長崎で多くの人に見られているようです。

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映画「オッペンハイマー」は、第2次世界大戦のさなか、原爆の開発を指揮したアメリカの物理学者、ロバート・オッペンハイマーを描いた作品です。

“原爆の父” と呼ばれる一方で、自らが開発した原爆が広島と長崎に投下され、想像を絶する被害が出たことを知り、苦悩する姿が描かれます。

クリストファー・ノーラン監督の作品で、アカデミー賞では「作品賞」など7部門を受賞して話題となりました。

日本での公開から1週間―。広島市内の映画館では大勢の人が訪れていました。

観客たち
「前からオッペンハイマーを知っていましたが、映画でやるので、知りたいと思って来ました」
「クリストファー・ノーラン監督の作品は好きなんですけど、原爆がどういうふうに描かれているか興味があります」

被爆国である日本での公開を巡って当初、議論があったといいますが、配給元などによりますと、3月29日の公開初日から3日間の動員数は全国で23万人を超え、興行収入は約3億8000万円。これはことし公開された洋画の第1位の記録です。

重いテーマで3時間に及ぶ作品としては、異例ともいえるヒットということです。

特に、被爆地の広島と長崎で映画への関心の高さがうかがえます。ここ数年で全国公開されたハリウッド映画などの洋画と比べても、広島・長崎の動員数のシェアは全国的にも高いということです。

映画を見た人(大学生)
「広島に来て初めて原爆について深く学び、戦争にも興味があったので。アメリカ側の感想や意見も知りたかった。映画はすごい衝撃でした」

映画を見た人(肉親が被爆)
「アメリカでこういう映画が作られたということは一定の評価ができると思うけれど、あのきのこ雲の下で父・母・祖母・祖父が倒れていたと思うと…。やっぱりアメリカの科学者の成功の話として受け止めてほしくない」

広島市の「八丁座」でも土・日の日中は、劇場定員の8割程度が埋まったといいます。

八丁座 蔵本健太郎 支配人
「本当に年齢層、幅広い方に来ていただいています。この作品は見ていろいろな意見が出る作品だと思うのですが、そういったいろいろな意見を議論をするきっかけになる映画だと思います。もっともっとたくさんの方に劇場でご覧いただきたいと思っています」

映画は、若い世代にも大きなインパクトを与えています。

広島市の祟徳高校・新聞部です。

3月に市内で開かれた「特別試写会」にも、部員ら40人が出席。映画「オッペンハイマー」をテーマにした新聞を発行しました。

祟徳高校 新聞部 2年 林友紀 さん
「まず若い世代としてできることは昔あった歴史を知ること。まずはわたし自身の世界を広げて知っていくことが大事だと思っています」

映画では広島・長崎の直接的な原爆被害の描写がないため、不満の声があること、一方で「この描き方で十分伝わる」という意見があることも両方、掲載しました。

祟徳高校 新聞部 3年 宮野眞陽(まさはる)編集長
「ぼくたちは『オッペンハイマー』だけで語れなかった原爆の恐ろしさを、これからもずっと継続的に同世代に伝えられるよう取材して紙面を作っていきたいと思っています」

日米の原爆観の違いを身をもって学んだ部員たち。次はさっそく海外の高校生が映画をどう感じたのか、取材する予定です。

再び世界で核の脅威が高まる中、映画は多くの人にとって議論のきっかけを与えたようです。

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― 映画には広島・長崎の原爆被害の描写はありませんが、原爆実験のシーンが詳しく描かれています。実験が成功して科学者・軍人が喜んでいるシーンを見ると、映画の中ですが、これが日本に投下されると思うと本当に苦しい気持ちになりました。

原爆はその後も放射能の被害が続いています。広島の被害を忘れないで、核兵器の恐ろしさを伝えていくことが広島の人たちにできることだと思います。映画で原爆を落とした側の経緯を知ることで、議論するきっかけにもなります。あらためて被爆地・広島と長崎がこの映画をどう見たのか、その意見が世界に届けばいいと感じました。

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