国境離島新法施行から7年 雇用創出で五島の移住増加 支援事業採択“頭打ち”一層の人材確保課題

県外から移住し、カラリト五島列島のレストランマネジャーを務める森さん=五島市

 国境に近い離島の社会・経済活動の維持を掲げた国境離島新法は2017年度の施行から7年。長崎県内の離島では創業や事業の拡大支援により雇用が生まれ、特に五島市では移住者の増加につながっている。ただ、雇用機会拡充事業の採択は“頭打ち”の状況で、一層の労働力確保が課題となっている。

 2022年8月に五島市大浜地区でオープンした宿泊滞在施設「カラリト五島列島」。レストランマネジャーの森淳平さん(44)は昨年、妻と共に神奈川県から移住した。
 前職は同県内のワインショップの従業員。新型コロナ禍を機に地方への移住を検討する中、施設を運営するカラリト代表の平﨑雄也さん(39)とは知人でもあり五島へ。ワインなど酒に関するノウハウを生かせる働き口があったことが移住の決め手の一つだった。森さんは「都心ではできない心豊かな生活ができている」と実感を込める。
 施設は旧保養所を改修し、新築部分を合わせ全48室。従業員の半数以上の約30人はU・Iターンで、その多くが30代だ。
 同社を後押ししたのが、創業や事業拡大の設備投資などを支援する雇用機会拡充事業。東京の不動産開発会社を退社して起業した平﨑さんは「開業する上で大きなメリットがあった」と語る。オープン後も制度の存在が新事業に踏み出すきっかけになっている。
 同法の支援以外にも同市には利点がある。島外から進出した別の企業は、県内離島の中で高校が4校と多く、人材が確保しやすい点を挙げ、宿泊施設関係者は観光客が増えているので事業展開が見込めるという。
 同市は23年、3年ぶりに転入者が転出者を上回る人口の「社会増」となった。離島の自治体としては異例で、移住者は過去最多の270人。18年度に移住定住の担当課を新設して以降、東京など大都市圏で市単独の相談会の開催や、交流サイト(SNS)を使った情報発信をいち早く取り入れるなどし、20~30代のU・Iターンを促進した。
 県や同市によると、同事業による雇用実績(22年度)は70人で、壱岐市の33人、対馬市の29人の2倍以上。このうち移住者は27人で、壱岐市8人、対馬市2人を上回る。
 一方、同事業の採択数は伸び悩んでいる。壱岐、対馬、五島列島での創業や事業拡大の採択は開始当初の17年度が計116件(雇用実績計340人)、翌18年度は計149件(同260人)。これに対し22年度は115件(同150人)。制度の活用が一段落したことや、コロナ禍の影響があったとみられる。
 五島市の中小企業診断士、今村大治氏は同市の雇用機会拡充事業について、観光客の来島によって需要が生まれ、移住者の増加で労働力が確保されていると分析。一方、「人口減少に伴い、社会インフラの維持が困難になる」と指摘。行政の対策として「現在実施している全国の移住相談会などを強化し、移住者を増やすことが挙げられる」とした。

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