紙幣の偉人 地域つなぐ 新1万円札渋沢栄一ゆかりの白河市と埼玉・深谷市 観光振興へ連携 御朱印を作製

渋沢が揮毫した文字を基に作られた社号標の前で、新紙幣発行に期待を膨らませる金田さん(左)と中目さん=白河市・南湖神社

 新紙幣発行まで3カ月を切る中、新1万円札に描かれる実業家渋沢栄一(1840~1931)にゆかりがある白河市の白河西ロータリークラブ(RC)は、渋沢の出身地・埼玉県深谷市のRCと連携を強め、地域振興に向けて動き出した。記念碑建立などを模索し、8日は白河市で両市長が懇談する場を設ける。千円札の顔となってきた野口英世(1876~1928)の古里猪苗代町では、企画展などを通し医学で世界に名をはせた偉人の功績に光を当てる取り組みが始まった。

 「日本資本主義の父」と称される渋沢は白河藩主を務めた松平定信(1758~1829)を崇拝していたとされ定信をまつる白河市の南湖神社の創建に尽力した。神社の表札に当たる社号標は渋沢が揮毫(きごう)した文字を基にしている。

 白河西RCは2011(平成23)年6月、渋沢を縁に深谷市の深谷ノースRCと姉妹クラブ協約を締結した。2013年5月には両RCが橋渡し役となり、白河、深谷両市の災害時応援協定締結につなげた。地域振興策の詳細は今後詰めるが、後世まで語り継ぐことができるよう構想を温めている。

 新札発行を前に、渋沢ゆかりの地を回りたい―。8日の両市長の懇談は小島進深谷市長の強い願いを受け両RCが仲介した。南湖神社などを視察し、鈴木和夫白河市長と交流の在り方を話し合う予定だ。白河西RCの金田昇さん(72)は「渋沢を起爆剤に、地域の観光が盛り上がってほしい」と期待を込める。

 南湖神社は新紙幣記念の御朱印や、お守りの作製を企画している。宮司の中目公英さん(63)は「渋沢ゆかりの神社として認知度が上がっており、さらに価値を高めたい」と知恵を絞る。

※新紙幣 7月3日に発行される。2022(令和4)年度に製造が始まり、日銀によると、今年度までに累計74億8千万枚が製造される見通し。1万円札の渋沢栄一、千円札の北里柴三郎の他、5千円札に津田塾大創始者で女性教育の先駆けとなった津田梅子(1864~1929)が描かれる。最新の偽造防止技術を反映させており、お札を傾けると肖像画が回転する「3Dホログラム」を世界で初めて採用する。

■新旧千円札野口英世と北里柴三郎 猪苗代で2人の絆紹介

 猪苗代町では、20年にわたり千円札の顔になった野口英世の功績を改めて見つめる機運が高まっている。

 野口英世記念館は来年3月16日まで、野口と、新千円札に肖像が採用される野口の恩師・北里柴三郎(1853~1931)の絆を伝える企画展を催している。北里は医学界でドイツ語が主流だった当時、野口の英語力を評価。来日した米国博士の通訳に抜てきしたことが、野口が世界を舞台に活躍するきっかけの一つとなった。企画展には北里が贈った野口への追悼辞、野口が描かれた現在の千円札の「2号券」など、約30点が並んでいる。

 町内の歴史研究団体「猪苗代の偉人を考える会」は野口の顕彰に向け、展覧会や講演会の開催、紙芝居の制作などを計画している。来年は野口が母との再会のために帰国してから110年、2026(令和8)年は生誕150年など節目の年が続く。会長の小檜山六郎さん(78)は「お札の中で一番身近な千円札から野口博士の顔がなくなるのは寂しいが、この機会に功績を再認識してほしい」と準備に余念がない。

北里から野口への追悼辞などが展示されている企画展=猪苗代町・野口英世記念館

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