岸田訪米に期待すること(4月7日)

 岸田文雄首相は、4月10日に米国を公式訪問し、バイデン大統領と会談し、議会で演説する。

 今回の訪米は国賓待遇であり、2015年の安倍訪米以来だ。日米同盟の深化を確認することが主目的だが、支持率が20%を切り、秋には自民党総裁選を控え、早々の交代の可能性もある岸田首相を、米国が重視するのはなぜなのか。

 まずは中国との競争姿勢を明確にしている米国にとって、在日米軍を受け入れるだけでなく、自国の防衛力と同盟協力を強化している岸田政権への評価だ。

 それに加えて、バイデン氏が岸田氏の積極的なウクライナ支援を高く評価していることがある。

 岸田氏は、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後、いちはやくロシアを非難し、ウクライナ支援を打ち出した。2023年の広島G7では、ゼレンスキー大統領を日本に招待し、原爆慰霊碑に2人で献花し、ウクライナに核の使用を仄[ほの]めかすプーチン大統領に対抗する、無言のメッセージを送った。

 現在、米国のウクライナ支援のための歳出法案は、議会下院共和党のトランプ派の強硬派議員の反対で止まっている。すでにウクライナの弾薬は不足しており、このままだと、ロシアの反転攻勢の前に総崩れしかねない厳しい状況にある。

 バイデン大統領は昨年12月、ホワイトハウスから議会と国民向けに演説し、ウクライナ支援のための予算を通さなければ、プーチン大統領へのクリスマスプレゼントになってしまうとして、支持を訴えた。その際に、もし米国が支援を止めたら、ウクライナを支援している日本はどうなる?G7はどうなる?NATO諸国はどうなる?と真っ先に日本の名前を挙げた。

 おそらく、その理由は、一部の共和党議員の、ウクライナ支援に反対する根拠の一つが、より深刻な脅威である中国に対抗するために、ウクライナに資源を浪費すべきではないという主張にある。

 それに対して、バイデン氏は、中国の脅威により近い場所で対峙[たいじ]している日本が、むしろウクライナを積極的に支援していることを示して、ロシアのウクライナ侵攻を失敗に終わらすことこそ、中国の台湾進攻のハードルを上げることだと、暗に言いたかったのだろう。

 米国の関係者から聞いた話では、バイデン氏は、岸田氏の「ウクライナは、明日の東アジアかもしれない」という発言をとても評価しているようだ。

 おりしも、岸田首相が訪米する今月、議会では、膠着[こうちゃく]状況にあるウクライナ支援の歳出法案の採決が行われる見通しだ。現時点で可決するかどうか予断を許さない。

 だからこそ岸田首相は議会の前で、「ウクライナは、明日の東アジアかもしれない」と主張し、国際秩序を守るために、ウクライナ支援をともに継続しようというメッセージを出すべきなのである。

(渡部恒雄 笹川平和財団上席フェロー)

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