「待つ日」も尊い

 〈あなたが最も好きなスポーツ選手は誰ですか?〉。世論調査を手がける機関、中央調査社は1年前、全国の成人1100人余りから回答を得た。1位は大谷翔平選手、2位は羽生結弦さん。そうだよな、と思ったあと、3位の人物に驚く。イチローさんだった▲調査の時点ですでに引退から4年。たゆまず上を向いた選手時代、野球の普及に熱心な引退後。ともに人を引きつけるのだろう▲天才と呼ばれたその人も極度のスランプを味わった。対処法を聞かれ、さらりと答えている。「対処しないことです。つらくてもそのままやってください」。失敗を引きずらない。気持ちを新たに「次」に臨む方がよほどいい。そう告げるようでもある▲もう一人、将棋の羽生善治さんは、不調で負けが込むと、散歩や旅行で気分転換を図るという。思い詰めても仕方がない。イチローさんに通じる「待つ」の極意だろう▲年度が変わり、慣れない職場で戸惑い、調子の上がらない人も多いとお察しする。この休日は、気持ちの切り替えという達人たちの“対処法”が生きるかもしれない▲昔のサラリーマン川柳にある。〈打てぬ日もあるイチローを好きになり〉。打って当然の人も、打てずに「ああ、イチローも人の子だな」と誰かを慰めた。打てぬ日、「待つ日」も時に尊い。

© 株式会社長崎新聞社