福島県浪江町の震災遺構「請戸小」に、アスファルトの割れ目から芽吹いた1本の桜が花を咲かせている。東日本大震災の発生で大津波に襲われ、東京電力福島第1原発事故により立ち入りが2017(平成29)年までの6年間、規制された場所だ。避難を強いられた人々の代わりに古里を見守り続け、今は3メートルほどの背丈になった。困難をものともせず、すくすく育つ姿は明るい未来の象徴。町は若木を大切に育て、次世代につないでいく。
校舎1階西側にあるランチルームの外側に生えている。請戸地区の避難指示が解除された2017年、小さな木が芽吹いているのに町職員らが気付いた。どういう経緯でアスファルトの割れ目に定着したかは分からない。震災遺構として整備する際、切らずに残しておいたところ、数年前から花がつくようになったという。町は「ド根性ザクラ」と呼んでいる。
今年は4月に入るとつぼみが膨らみ、少しずつ開き始めた。請戸小の周辺は県による防災林の整備が進み、花が少ない。若木が咲かせる白のかれんな花が地域に彩りを添える。町によると、週明けには見頃になる見込みだという。
町は今後も桜を大事に管理していく。町生涯学習課の牧谷さゆり主査は「厳しい環境にも負けずに咲き続けている。これからも成長を見守っていきたい」と誓っている。
請戸小は海岸から約300メートルの場所にある。津波は1階部分を全て押し流し、2階の床にまで達した。校内にいた児童82人は西に1キロほどの高台にある大平山に避難し全員、無事だった。津波の爪痕が残る校舎を町は震災遺構として整備し、2021(令和3)年10月に開館した。震災の記憶や教訓を後世に伝えている。