岸田首相に来てほしくない 「政治とカネ」で逆風 告示後島根入り調整も、関係者「逆効果」 衆院島根1区補選

自民党の石破茂元幹事長(手前)の街頭演説を聞く有権者=1日、松江市朝日町、JR松江駅

 「岸田首相に来てほしくない」ー。細田博之前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補選に新人候補を擁立する自民党の島根県関係者が難色を示している。全国3補選のうち唯一、事実上の与野党対決となり、岸田文雄首相にとって政権の命運を握る負けられない戦いとなる。党本部は首相の島根入りを調整する一方、「政治とカネ」の問題で逆風を受ける地元からは「逆効果」との声が上がる。

 「皆さまと同様、私も今回の問題は強い憤りを感じている。本当に釈明のしようがない残念なことだ」

 7日、松江市内での集会で、錦織功政氏(55)が20人を前に、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件への怒りをあらわにした。集会や街頭に立つ先々で、自らを公認する党を批判する姿は異例だ。

 裏金事件後、初の国政選挙となる3補選(16日告示、28日投開票)で、自民は東京15区と長崎3区で候補者擁立を断念。唯一公認候補を立てる島根1区での議席死守に向け、小渕優子選対委員長や石破茂元幹事長、上川陽子外相らが島根入りし、支持固めに奔走する。関係者によると、首相は選挙戦中盤での応援を調整しているという。

 一方、地元は冷めた空気が流れる。首相ら党執行部が裏金事件の処分案を提示し、4日に39人を処分したものの、松江市内の地域支部幹部は「国民感覚として党内処分にとどまるのが『生ぬるい』という見方もある。もっと早く処分してほしかった」と指摘。雲南市内の地域支部幹部は「首相が来たってだめ。きれいごとを言ったところで悪循環だ」と突き放す。島根1区の戦いを「天王山」と位置付ける野党が攻勢を強める中、党総裁の応援でさらに批判が強まることを懸念する。

 島根入りした党本部の幹部も空気を察する。6日に松江市内で取材に応じた党選対副委員長の牧原秀樹衆院議員は「東京の党本部が足を引っ張っている状態だ」と分析。民主党に政権を奪われる1年前の2008年衆院山口2区補選で、当時の福田康夫首相が選挙区入りした後に差が開いて負けたと説明し、「本当に首相が入るのがいいかどうか、よく見極めないといけない」との考えを示した。

 島根は1996年の小選挙区制導入以降、2021年衆院選まで県内全小選挙区の議席を自民が独占。細田氏や竹下登元首相、青木幹雄元官房長官らを輩出した「保守王国」に幹部が相次いで来県することに加え、党の顔であるはずの首相を地元が拒む現状は逆風の強さを物語る。

 1区選挙対策本部の嘉本祐一事務本部長は「首相が来ることは選挙にマイナスではないかとの意見は聞いている。さまざまな意見を勘案しながら、何が一番有権者に共感を持たれるか検討したい」と話した。

 補選はこのほか、立憲民主党元職の亀井亜紀子氏(58)、無所属新人の佐々木信夫氏(85)が立候補を予定している。

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