「撤回します」

 時間をおいて読み返しても、やっぱりひどい。「県庁はシンクタンク。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノをつくったりとかと違い、皆さんは頭脳、知性の高い人たち」-中身について改めて論じる必要などあるまい。“純度100%”の不適切発言だ。発言の主はきょう、静岡県知事の職を去る▲舌禍の責めを負って自ら辞めると決めた人に、今さら外野席からとやかく言うこともなさそうだが、公人の問題発言や失言を巡ってしばしば耳にする「発言を撤回する」はつねづね気になっている▲以前にも書いた覚えがあるが、頭の中で一度も考えたことのない事柄は、絶対に口から出てこない。そして、朝から品のない表現で申し訳ないが「吐いた唾は飲めない」のだ▲音声は目に見えないけれど、誰かの口から出て誰かの耳に入り、心や胸に刻まれてしまった言葉は、発言者がどんなに撤回を申し出たところで「なかったこと」にはならない。問題発言を真摯(しんし)に反省した話者にできることは、本来「平謝り」しかないはずなのだ▲どこかもっともらしく響く「撤回」がそのことを曖昧にしているように思えてならない。あるべき訂正や謝罪が省略され、代わりに言葉は重みを失って失言は続く▲この先何回、政治家や公人の「撤回します」を聞くのだろう。(智)

© 株式会社長崎新聞社