SNS型投資・ロマンス詐欺 被害拡大 福島県内 1~3月被害3.3億円 昨年1年間を上回る

 交流サイト(SNS)を通じて投資に勧誘する詐欺の被害が止まらない。著名人が関与する投資サイトをかたり虚偽の投資話を信じ込ませる「SNS型投資詐欺」と、SNS上のやりとりで恋愛感情を抱かせ支援金名目や投資話で金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の2類型の県内の被害合計額は、今年1~3月の3カ月間で3億2820万円(18件)に上り、昨年1年間の2億2902万円(23件)を上回った。4月もすでに複数の被害が確認されており、11日には会津若松市の60代女性がSNS型投資詐欺で1400万円をだまし取られたことが分かった。県警は県民に注意を促すとともに、捜査を強化している。

 

 福島県警が11日に発表した集計によると、県内のSNS型投資詐欺とロマンス詐欺の認知件数と被害額の推移は【グラフ】の通り。昨年秋ごろから被害が拡大し、今年はSNS型投資詐欺が1月に1億4544万円(3件)、2月に8655万円(7件)、3月に5094万円(3件)の計2億8293万円となった。ロマンス詐欺は1月3725万円(3件)、2月529万円(1件)、3月273万円(1件)で計4527万円。昨年1年間の投資詐欺被害は1億2326万円、ロマンス詐欺被害は1億576万円だった。

 今年3カ月間の被害18件を年代別に分析すると、60~64歳と70代がともに4件で最も多く、30代と50代は各3件、40代と65~69歳は各2件。高齢者に限らず、現役世代も被害に遭っている。主にインスタグラムやマッチングアプリ、フェイスブックなどのダイレクトメッセージなどで接触し、その後はLINE(ライン)に移行して数週間やりとりを重ねるケースが多い。短期間に何度も口座に振り込ませ、被害が多額になるケースが目立つ。

 1月に新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、政府が資産運用立国を目指すなど投資への社会的関心の高まりに犯罪グループが乗じている可能性がある。従来型の成り済まし詐欺は被害者宅を訪問するなどの対面式だったが、SNS型詐欺は非対面式で口座間での金銭のやりとりとなるため、摘発の端緒をつかみにくいという。

 

■俺みたいな老人を相手にしてくれるのか ロマンス詐欺被害70代男性 巧妙な手口証言 「怪しいと思ったが」

 SNSで知り合った女性から投資を持ちかけられ、約250万円をだまし取られた会津地方の70代男性が福島民報社の取材に応じた。「怪しいと思うことはあったが、だまされているとは気付かなかった」。スマートフォンを通した巧妙な詐欺の手口を証言した。

 

◇見知らぬ美女

 今年1月、フェイスブックに面識のない女性から友達申請が届いた。台湾出身で東京在住のファッションデザイナー。一度は申請を断ったが、「女優さんのようなプロフィル写真」に後ろ髪を引かれ、再び届いた友達申請を承認した。

 程なくして女性からLINE(ライン)で連絡を取り合わないかと打診された。女性は春節(旧正月)で台湾に帰省中だと言い、食事や趣味のヨガの様子を撮った写真などを1日に何度も送ってきた。たわいもないやり取りを重ねるうち、「俺みたいな老人を相手にしてくれるのか」と親近感を抱くようになった。

 「実際に話してみたい」「会いたい」との思いが募り、自身の携帯電話番号を伝えた。でも、女性は番号を教えてくれなかった。

 

◇甘い誘い

 連絡を取り合い始めてから約3週間。女性はLINEで「フィリピンの女の子など支援を必要としている人を助けるため、姉と一緒に投資して利益を上げるたびにお金を(フィリピンなどに)送る習慣がある」と切り出し、金(きん)の投資サイトを紹介してきた。姉が米ニューヨークで金融会社を経営し、投資の専門家だと説明した。

 「姉の指示に従えば安定して利益が出る」「新型コロナの影響で経済が衰退する中、金は安定性と保存特性がある」と力説された。

 

◇短期間に何度も

 「少額なら…」。勧められた投資サイトにスマートフォンでログインした。2月27日、指定された個人名義の口座に地元の地方銀行から5万円を振り込むと、すぐにサイト上に4万円以上の利益が表示された。一方で「振込先が知らない男性の個人名義の口座なのはなぜか」と疑問に思った。指定された振込先は宮城県の都市銀行支店だった。

 1カ月後の3月26日。「50万円ぐらいなら損してもいいか」と、今度は45万円を振り込んだ。振込先は1回目と違う熊本県の都市銀行支店で、受取人名も変わっていた。投資サイトの画面には数十万円の利益が表示された。「一瞬でこんなにもうかるなら、まともに働くのがばかばかしくなる」。そう思った。

 その後、投資サイト上で「4万ドルないと取引は続けられない」と通告された。指示に従い3月28日、85万5千円を振り込んだ。この時点で画面上の利益は600万円を超えていた。

 利益を払い戻そうとしたら、「円とドルを両替するために手数料がかかる」と言われた。「両替でこんなに高額な手数料がかかるのか」といぶかしんだが3月29日、116万9250円を振り込んだ。指定されたのは静岡県の都市銀行支店で、受取人名はまた違っていた。「利益を確保するためなら」。抵抗感はそれほどなかった。

 

◇大切な老後の資金

 4月1日、口座変更に伴う保証金として今度は146万1450円を要求された。地方銀行の窓口で振り込みをしようとした時、対応した男性行員が言った。「それは詐欺の手口ですよ」。警察官が駆け付けて初めて、「だまされていたのかもしれない」と悟った。

 だまし取られた計約250万円は老後の資金としてためていた大事な金だった。「お金はもう戻ってこないのか…。だまされた自分に腹が立ってくる」と悔しがる。ただ、女性は実在しているのではないかとの思いも消えない。被害判明後も女性から来たメッセージに返答したという。

 被害金を取り戻すため、弁護士に相談するか検討している。いろいろなことが信じられなくなった。

 

■偽りの信用・信頼 県警本部が注意呼びかけ

 SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺の共通点は、非対面の交流サイト(SNS)上でのやりとりで築かれた偽りの信用・信頼を土台にしている点だ。著名人や有名証券マンらが投資サイトに関与しているようにかたったり、男女間の恋愛感情につけ込んだりして詐欺被害の判明を遅らせ、多額の金銭をだまし取っている。

 県警によると、SNS型投資詐欺の被害イメージは【図】の通り。

 県警本部生活安全企画課の担当者は「投資話や暗号資産のもうけ話は相手が登録業者かどうかを金融庁ホームページで確認する」「投資話で振込先口座が個人名義であれば詐欺を疑う」などと注意を呼びかけている。県警はSNS型詐欺の啓発動画を作成し公式チャンネルで配信している。

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