栃木の「ヒカリ美容室」、61年の営業に幕 88歳の井上さんが1人で営業 「常連客と自分の体に感謝」

ヒカリ美容室店主の井上さん(左)と開店以来の常連だった片野さん

 【栃木】泉町の美容室「ヒカリ美容室」は3月までの営業を最後に閉店した。1963年の開店後、店主の井上光子(いのうえみつこ)さん(88)が1人で営業してきたが、後継者不在などもあって90歳の節目を前に店を畳むこととなった。閉店後の今月9日、井上さんは開店当時から通う常連客に花とヘアブラシをプレゼントし、感謝の気持ちを伝えた。

 井上さんは県内の中学卒業後、東京都新宿区の美容室で修業を積んだ。17歳で美容師免許を取得し、都内や県内の美容室に勤務した。結婚後、夫の実家がある市に移り住み、現在の場所に店をオープンさせた。

 「髪のくせなどに合わせ、お客さんの要望などをよく聞くように心がけた」といい、丁寧な仕事が評判を呼んだ。施術中にはコーヒーやお茶を提供し、地域住民が気軽に通える憩いの場としても親しまれた。

 美容師の見習いを受け入れた時期もあったが、61年間の大半を1人で営業してきた。正月や成人式などの日には、早朝から日をまたいで1日40人ほど対応した。50代半ばのころには、骨折した足を椅子で支えながら仕事を続けたという。今でも大きな病気はなく「90歳まで店を続ける思いだった」というが、後継者がいないことや、1人暮らしの井上さんの体調を心配する親族の勧めで閉店を決めた。

 井上さんは閉店後、常連客に連絡してお礼の気持ちを伝えた。錦町、片野(かたの)ヒサエさん(89)は「約60年通い続けた。(井上さんは)親切に対応してくれて来やすい場所だった」と閉店を惜しんだ。「ずっと通ってくれた人と、仕事を続けられた自分の体に感謝している」。井上さんの表情は充実感に満ちていた。

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