村で唯一、夜間営業の飲食店 原発事故で避難、13年ぶり故郷で再開 福島・葛尾村

今年3月、福島県葛尾村に唯一、夜に食事を提供する飲食店がオープンしました。故郷に再びよりどころを。13年ぶりに故郷で店を再開させた男性にカメラを向けました。

葛尾村にオープンした「御食事処 政(まさ)」。夜に食事を提供する飲食店は、村の中でこの店1軒だけです。

仙台市から訪れた人「お酒を飲める場所があると交流の場として非常に良い」 村民「午後9時半までやっている店ができてうれしい」

店主の渡辺政広さん(48)。13年ぶりに村で店を再開させました。

御食事処政・渡辺政広さん「帰って来たかったので、その気持ちがあったのでうれしいですね。楽しい葛尾にしたいので…」

避難先でも飲食店 知人から“ある相談”

470人が暮らす葛尾村。震災前は、1600人ほどが生活していました。

渡辺さん「これが小さいですけど看板です。23年くらいありますね」

「居酒屋政」。渡辺さんが自宅の一角に構えていた店です。10人が、やっと入れるその店は、村のよりどころでした。

渡辺さん「ここに立つとよみがえりますね。目の前に座っているお客さんがいて、テーブルのお客さんもいて、お客さんの話を聞きながら料理を作って。ゆっくり考えたことがなかった

しかし、原発事故で村の全域が一時避難区域に。住民たちは、故郷を離れることを余儀なくされました。

渡辺さん「ここには大きい家があった。それも壊されましたし、あっちの家もこっちの家もあるんですが、誰も住んでいないですし」

避難先の三春町で飲食店を開いた渡辺さん。2019年に村に戻ってからも、三春町で店を続けてきました。

渡辺さん「みんな違う場所で生活の拠点を作ったので、商売をやるには厳しいなと」

しかし去年、村の知り合いから“ある相談”を受けます。

「夜、食事をする場所がない。村に店を開いてくれないか」。

「ここがあって幸せ」村民つなぐ場所に

葛尾村には、食堂がオープンしていますが、午後6時半以降、食事を提供する飲食店はありませんでした。

渡辺さん「何回も誘われてすごく熱く誘われたので、もちろん自分も葛尾村が好きですし、地元なので困っている人がいるのを聞いてやってもいいかなと思った」

村に再び、よりどころを。店の再開を決意しました。

この日、訪れたのは、村の交流施設です。仕入れたのは、村で収穫されたハクサイやシイタケなど。地元の食材を使うことを心がけています。

渡辺さん「農家にも少しでも作る楽しみを、うちの野菜を店で出しているというのを広げてもらえればいいなと」

渡辺さんの店は、村内の宿泊施設にあります。自慢は、村内で育てられた鶏を使った串料理。およそ30品の料理で客をもてなします。

午後5時。「御食事処政」、開店です。

村に暮らす女性は、この日、埼玉に避難した友人と13年ぶりに再会しました。

村民の女性「偶然、昼間に会ったんですよ、13年ぶりです。最高です、こういう場があれば村外からも帰って来る人が多くなるので」 埼玉に避難した村民「私も何回も葛尾村に泊まったが、こういうところがなかったから、自分で食事を買ってきて部屋で飲んでいた。ここがあるといいよね」

店は、「村民をつなぐ場所」でした。昔の店の、常連客たちも足を運びます。

村民「やっと戻って来たなという気持ち。こういう雰囲気のところが村内にひとつでもあってすごく幸せです」

一度は、夜の明かりが消えた葛尾村ですが、「御食事処政」は村に、にぎわいを灯し続けます。

渡辺さん「葛尾村に住んでいて楽しいなと思ってもらうために、ここでおいしい料理を出せればと思います」

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