ハキリアリ(4月16日)

 地中にも農家がいる。といっても、人間の話ではない。協業の仕組みが整っているとされるアリの世界だ。中南米に生息しているハキリアリは、キノコ栽培に精を出す。九州大准教授の村上貴弘さんが紹介した▼森から葉を切り出し、巣に運んで細かく切り刻む。菌糸を植え込み、施肥もする。温度27度、湿度90%に保たれた土の中は天然の「菌床」。成長したキノコを、貴重な栄養源として幼虫や女王アリに与える。ごみ捨てや巣の掃除も怠らない。人類が農耕を始める、はるか以前から続く営みという▼「紅こうじ」はコメに菌を繁殖させて作られ、中国では老酒[ラオチュウ]や薬膳料理に用いられてきた。今、この成分を含むサプリメントの健康被害が全国に拡大している。摂取した人が肝臓の病気を発症し、命を落とした例も報告された。県民からも保健所に相談が相次いでいる。青カビから発生する物質が原因とされるが、真相はいまだに分からない▼ハキリアリの寿命は3カ月。身を粉に、キノコ栽培の作業を切れ目なくこなす。問題のサプリを巡っては、危機管理の工程が抜け落ちていたのか。公表まで2カ月も要するとは…。勤勉な短い命を思えば、何とも悠長すぎる。<2024.4・16>

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