腰に手を当てゴクゴクッ…湯上がりの定番「瓶入り牛乳」が銭湯から消えた 紙パックは販売不調、宅配業者にも波紋 鹿児島県内

瓶入り牛乳の販売終了を受け、空いたスペースに紙パック製品を並べる従業員=鹿児島市の錦湯

 温泉県の鹿児島で、湯上がりの光景に変化が起きている。乳製品メーカー大手の森永乳業が3月末で宅配向け瓶入り牛乳の販売を終え、取引のあった銭湯からは一斉に瓶入り牛乳やコーヒー牛乳が姿を消した。「風呂上がりの一杯が楽しみだったのに」などと常連客の惜しむ声に加え、売り上げ減や廃業する宅配業者も。湯上がりの「定番」終了の波紋が広がっている。

 4月上旬、鹿児島市易居町のかごっま温泉。フロントの一角にある冷蔵ケースはどこか物寂しかった。本来は瓶入りの牛乳やコーヒー牛乳で埋め尽くされていた棚のメインともいえる中段は空っぽだった。

 1日約150人の入浴客に対し、瓶入り牛乳などは30~40個売れる人気商品だった。原田孝造代表(74)は「やっぱり見た目がそそる。紙パックは保存期間は長いが、湯上がりにストローで飲む気にはならない」。復活を望むものの取引先の宅配業者は瓶入り製品の終了を機に廃業。「銭湯メインに卸していた。得意先を失い痛手だったのでは」とおもんぱかった。

 「客から何度も尋ねられ、やっぱり愛されていたんだと実感した」とつぶやくのは温泉錦湯=同市下荒田2丁目=の岩切純也代表(73)。今は紙パック製品を仕入れているが、売り上げは1割程度まで激減した。

 常連客の田中憲明さん(74)は「パックだと紙の匂いが気になる。ヒヤッとした瓶の牛乳がささやかな楽しみだった」と早くも懐かしむ。岩切代表は「瓶入り牛乳目当てに客が別の銭湯に流れないといいが」と、瓶入り製品を扱う業者への変更も検討している。

 瓶の回収から洗浄までといったコストもかさみ、小岩井乳業などをはじめ各メーカーで瓶入り製品の販売終了が続く。一方で、懐かしさやその土地ならではの風情は、観光にとっても欠かせない要素だ。

 森永乳業によると、同市内の銭湯から販売終了の理由を尋ねる問い合わせが数件寄せられたという。

 県公衆浴場業生活衛生同業組合鹿児島市支部長でもある亀乃湯=同市三和町=の永用八郎社長(70)は「コスト面などメーカー側の考えは理解する。ただ腰に手を当て、昔ながらの瓶入り牛乳を飲む体験ができるのは銭湯くらい。鹿児島の古き良き文化を残せるよう組合としても考えたい」と話した。

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