台湾有事は「日本の主権問題と密接に関係」 米外交政策研のチャン氏が講話 抑止力の要・南西諸島の防衛力強化を強調

日米の協力関係強化を訴えるフェリックス・チャン氏=16日、南日本新聞社

 アジアの海洋安全保障などをテーマに研究する米外交政策研究所のフェリックス・チャン上級研究員が16日、鹿児島市の南日本新聞社で講話した。「台湾有事は日本の平和と密接に関係している」と述べ、南西諸島の防衛力を強化し、抑止力を高める重要性を強調した。講話と質疑応答の要旨は次の通り。

 この15年、日本の国境付近で中国の活動が活発化している。最も攻撃的な行動が見られるのは沖縄だ。南西諸島は中国の海洋進出に対する防壁としてみなされている。

 中国を抑止するために南西諸島で地上配備型の対艦ミサイルを使うことは理にかなっている。しかし、抑止のための南西諸島の軍事力は不足していると考える。対艦ミサイルの数を増やし、無人機導入も必要だろう。ウクライナがロシアに黒海で対抗している手法からも学ぶことが多い。航空機の数で中国に及ばなくても、費用対効果の高い方法で抑止力を実現できる。

 台湾有事は、日本の主権と直接的に関係している。中国が台湾統一した場合、中国海軍は第2列島線まで進出し、米国と日本の連携が切断される可能性が出てくる。例えば日中の間で貿易摩擦が起きると、「譲歩しなければ日本を孤立させるぞ」と脅迫することができる。尖閣諸島を巡る問題が発生した場合も同様だ。

 現在、日本は米国の核の傘の下にある。中国が台湾を統一すると、米国や同盟国は日本を守ることが難しくなる。日本は核戦略で自分たちを守らなければならないと考えるようになるかもしれない。不安定化の要因が増える。台湾有事は、日本を含むこの地域の平和と繁栄に非常に密接な関連性を持つ。

 防衛拠点ができると地域住民が不安を感じるのはもっともだ。戦闘になる可能性を回避するためには、戦力を持つことが重要だ。交渉のテーブルにつくためにも強くならなければならない。弱い立場では敵に攻められる可能性がある。

 軍事力以外にもエスカレーションを避ける方法はあるかもしれない。経済的な協力関係を進めることも考えられる。例えば、東南アジアの国々と協力を進め、それぞれの国益と主権を守るようにするということだ。

 政治的な意思も重要だ。自由で開かれたインド太平洋を守る、という団結を築く点において日米が推進役となり得る。自由や民主主義という価値観を共有する国に限らず、権威主義的な国家との協力も欠かせない。しかし、統合的な抑止力を考えると、やはりどこかで軍事的な能力増強は必要になるだろう。

 〈略歴〉フェリックス・チャン 米国防情報局のシニア・プランナーや情報担当官、米国軍保健科学大の助教を歴任。アジアと欧州の軍事や経済、エネルギー安全保障が研究テーマで、国務省や財務省など政府機関のコンサルタントも務めてきた。人工知能エンジニアリング企業「DecisionQ」の最高執行責任者も務める。1972年生まれ。

■第1列島線と第2列島線

 第1列島線は沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ軍事戦略上の海上ライン。第2列島線は、その外側の伊豆諸島からグアム、パプアニューギニアをつなぐライン。1980年代に鄧小平氏の意向を受け、中国海軍司令官だった劉華清(りゅう・かせい)氏が打ち出した概念とされ、当初は第1列島線が敵の侵入を防ぐ防衛ラインと位置付けていた。近年は第2列島線を巡り、米国との対立が激しくなっている。

【地図】第1列島線と第2列島線を地図で確認する

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