「自分でお金について勉強する」「週1で口座を確認する」――資産アドバイザー兼メジャーリーガーが教える詐欺師に騙されないための方法<SLUGGER>

3・4月のMLB最大のトピックの一つが、「水原一平事件」であることに異論はないだろう。元通訳の水原が賭博で作った借金を、大谷翔平(ドジャース)の銀行口座から1600万ドル以上も詐取して清算したこの事件は、大谷の関与がなかったことでようやく騒ぎも下火になりつつある。だが、一歩間違えれば大谷のキャリアに取り返しのつかない傷がつくところだった。

水原が不正に使用していた口座に、大谷がほとんどアクセスしていなかったことも話題になったが、彼に限らず莫大なサラリーを稼ぐメジャーリーガーが、実は意外なほどお金に無知、あるいは無関心であることは珍しくない。2007年のサイ・ヤング賞投手ジェイク・ピービーは、引退後の18年にファイナンシャル・アドバイザーによって1500万ドルを口座から抜き取られたことがある。

さらに09年に起こったアレン・スタンフォード事件では、レッドソックスなどで活躍したオールスター外野手のジョニー・デイモンがポンジスキーム詐欺に引っかかり、一時資産凍結の憂き目にあったことも。ファイナンシャル・アドバイザーとしても活動する異色のメジャーリーガー、ロス・ストリップリング(アスレティックス)は、同様のケースを避けるために2つの点を強調している。まず一つは、「自分で資産について学習すること」が重要だという。
「野球が選手にとっての優先事項なのは分かる。それ以外のことはキャリアが終わるまで棚上げされることも多い。だが、時間を見つけて(資産について)自分自身を教育することが重要だ。現代は新型コロナウイルスの流行もあって、多くの人が証券取引アプリ『Robinhood』のアカウントを取得し、市場原理を学び、自分のお金がどこにあるのかを知っているような時代なんだから」

さらにストリップリングは、「口座を頻繁に確認すること」も大事だと述べている。「週に1回、あるいは月に数回は口座にログインするようにしてほしい。すべてのプラットフォームには口座の明細がログで残っている。先月どれだけの収入があったのか、それに対してどれだけの支出があったのか、ファイナンシャル・アドバイザーがどんな金融商品を買ったのかなど、時間をかけて把握する必要がある」と言う。

大谷のように、NPBやKBO出身の選手が口座の管理を他人に任せきりにすることにもストリップリングは警鐘を鳴らす。「僕はリュ・ヒョンジン(現ハンファ・イーグルス)や前田健太(タイガース)ともプレーした。彼らの通訳が、あらゆる口座にアクセスして、お金を引き出せるのは知っている。水原があれほど大きな権限を持っていたことは、それほど驚くべきことじゃないと思う。その点アメリカ人選手は、だいたい自分の給与明細がいくらになるかを正確に知っている。自分の口座に自分でちゃんとアクセスするからだよ」。

大谷が水原を盲目的に信頼していたことを例に挙げ、ストリップリングは「誰を信じるかはチームメイトの力を借りることも重要だ」と言う。「自分が最も頼れるチームメイトと、少なくともあともう一人の意見を聞いてから、誰を信頼するか決めたいよね」。

水原が極めて悪質だったことは間違いないが、大谷にも間違った人物を信頼した責任はある。ストリップリングの言うように、誰を信じるかを慎重に吟味することや、その相手にも資産を任せきりにしないことは、今後も世界最高の野球選手であり続けるために極めて重要となるだろう。

構成●SLUGGER編集部

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