「ハーブは暮らしに役立ててこそ、楽しい!」と話すのは、長年にわたってハーブを育て、その利用法を研究してきた桐原春子さん。本連載では、毎回1種類のハーブを取り上げ、栽培方法や活用方法、歴史などを教えていただきます。第34回は【アイ】です。
本連載の他、桐原春子さんの記事はをご覧ください。
藍染めの原料になる【アイ】
古くから藍染めの原料として名高いアイですが、実際に見たことがある人は少ないのでは。一般家庭でも栽培でき、染色も思ったよりずっと簡単にできるのです。
別名/タデアイ(和名)
科名/タデ科
性質/一年草
草丈/30~50㎝
多種多様なアイが世界中に分布
東南アジアから中国南部が原産のアイ。古代エジプトでもミイラを包む麻布がアイで染められていたといいます。
ちなみに一般にいわれるアイ(藍)は、単一の植物を指すのではなく藍色色素を含む植物の総称なのだそう。
「たとえば、ジーンズに使われるインディゴはマメ科の植物で、キアイと呼ばれるものです。日本ではアイというとタデアイを指し、漢字の『藍』がなじみ深いですね。邪馬台国の卑弥呼が魏の国に使者を送った際にアイが伝えられたとされ、江戸時代になって木綿が普及すると盛んに使われるようになりました。消毒・解毒作用があるアイで染めることにより生地が丈夫になり、虫よけにもなり、各地で栽培が広がりました」と桐原春子さん。
染色はお天気次第。それも面白さ
桐原さんは何十年も前から藍染めを楽しんできましたが、以前は今のようにハーブ専門店やネットで苗や種を入手することはできなかったそう。
「義母が国際婦人協会関連の会合で特産地の徳島に出向いた際、アイの苗をおみやげにくれて、とてもうれしかったことを覚えています。以来、葉を収穫しては染色を楽しんできました」
染まり具合は天候に左右され、晴天だと鮮やかに染まるといいます。
「お天気が今ひとつで曇った色合いに仕上がるとがっかりしたり。でも後になってみるとそれがよい味になったりして、奥深い楽しみがあります。アイ染めは葉を煮出すことなく生葉のまま使え、小学生でも楽しめるほど簡単です。ぜひ体験してみてください」
アイは強健で栽培も容易。
「日当たりのよい湿った場所を好み、プランターでも大丈夫。葉を多く収穫するには、液肥などの肥料をたっぷりと与えましょう」
花は雑草の「アカマンマ」そっくり
アイのポット苗をブリキの鉢カバーに入れました。茎は紫紅色で葉はよく茂り、観賞用やハンギングバスケットにもおすすめ。
秋には「アカマンマ」と呼ばれるイヌタデに似た、紅色の米粒状の花をびっしりとつけます。白花種もありますが、染色では同じ藍色になります。
活用アイデア① アイ染めのハンカチ
アイ染め初心者の方はハンカチからスタートしてみては。布の素材は薄手のシルクが染まりやすくおすすめです。
花が咲く前にアイの葉を摘み取って水洗いし、炊事用手袋をはめて、水とともにどろどろになるまでもみ込み、染液を作ります。染めるものが多いときはミキサーを使うと便利。
輪ゴムでしばるとしぼり模様になりますが、デザインは自由な発想で。
長めのシルクの布はスカーフとして使えます。
アイ染めの方法
❶染めたい布を用意し、しぼり模様をつけるために輪ゴムでしばり、水につけておく。
❷アイの葉(フレッシュ)約1カップと水400mlをステンレスのボウルに入れ、10分ほど強くもみ込み、染液を作る。
❸①の水けをしぼって②に15分ほど浸す。布を取り出して水けをしぼり、30分ほど空気にさらす。
❹③を水洗いし、広げて陰干しする。
100×90㎝の切りっぱなしのシルクオーガンジーをアイ染めに。張りのある生地と鮮烈な青が調和し、丸めるとブルーローズのよう。
活用アイデア② 植物染めのコサージュ
アイの他、セージやパセリなどでベージュやグリーン系に染めた布を重ねて作った優しい色合いのコサージュ。ピンクはミルラ(没薬の木)のやにを用います。
アイ以外の材料は煮出し、鉄などの媒染剤で色を定着させます。他にアイ染めの布を巻いたラベンダーバンドルズや、アイ染めの毛糸も。太い毛糸は多めのアイでむらにならないように染めますが、たとえむらになっても、それがまた素敵なグラデーションに。
かごに置いたコサージュの作り方
❶アイなどで染めた3サイズ(縦12×横70㎝、縦10×横65㎝、縦8×横60㎝)のシルクオーガンジーを用意する。
❷各布を縦半分に折り、各布の布端から0.5㎝のところを粗めに手縫いする。このとき、A→Bと縫ってAに縫い戻り、そのままC→Dと縫い進めてCに縫い戻り、玉留めをせずに糸を引っ張って布を縮め、平らな円形にする。
❸AのあたりとCのあたりを縫い閉じ、花びら形に整える。一番下に大、その上に中、一番上に小の花びら形を重ねておく。
❹8㎝角の薄い布の真ん中に、バラやラヴェンダーなど好みのドライハーブ少量をのせて、てるてる坊主を作る要領でひもで布をしばる。
❺④の下側を開いて、③の真ん中にのせて、3枚の花びらに縫い留める。
撮影/川部米応 イラスト/山田 円
※この記事は「ゆうゆう」2022年9月号(主婦の友社)の記事を、WEB掲載のために再編集したものです。
監修者
園芸研究家 桐原春子
英国ハーブソサエティー終身会員。長年、自宅でさまざまな植物を育て、家庭での実用的かつ美しい庭づくりを提唱。国内外の多くの庭を訪れ、ハーブの歴史、育て方、利用法を研究。カルチャースクールでハーブ教室の講師を務める。『知識ゼロからの食べる庭づくり』(幻冬舎)など著書多数。ブログ「桐原春子のハーブダイヤリー」やインスタグラムでも情報を発信中。