コウノトリと共生するには? 2年連続自然繁殖の広島県世羅町 持続可能なルールづくりへ試行錯誤

地域住民への迷惑行為を防ぐため、強い言葉が並ぶコウノトリの巣周辺の看板

 国特別天然記念物コウノトリが2年連続で繁殖した広島県世羅町で、共生に向けた仕組みづくりが始まった。住民や町などでつくるコウノトリ保全地域協議会を中心に、観察者のマナー違反対策や捕食される可能性のある絶滅危惧種への対応を検討。来年以降も同町で営巣する可能性を考慮し、持続可能なルールを設けようとしている。

 コウノトリは昨年に続いて住宅地の電柱に巣を作り、16日にひなが誕生した。巣から約150メートル地点の道路9カ所に「これ以上近づいての観察・撮影禁止」と記した看板を設置。「静かに見守ってください」というお願い文だった昨年から言葉を強めた。地元住民でつくる町コウノトリの会は「監視員」と書かれた腕章を巻き、マナー違反者に目を光らせることも決めた。

 昨年は、観察者が民家の庭や民有地に車を止めたり、軒先に2、3時間居座ったりして、地元住民から苦情が出た。保全地域協議会の竹内政彦会長(71)は「警察にも協力を依頼し、目に余る時は私たちも声かけをしていく」と話す。

 同町には、コウノトリと同じ絶滅危惧種のナゴヤダルマガエルが生息する。同町小谷の井藤文男さん(78)が2003年、福山市神辺町のスーパー建設予定地に生息していた約100匹を引き受け、20年以上種の保存に協力してきた。

 地元児童を招いて生息地を調査したり、保護する田で生産した農薬不使用米を「ダルマガエル米」として販売したり。地域とともに暮らす「先輩」とも言えるカエルだが、大食漢で知られるコウノトリは天敵となる。

 協議会と井藤さんは、コウノトリがカエルの生息地に近づく時は、大きな音を出して追い払うなどの対策を確認。井藤さんは「食うものと食われるもので共生はできない。カエルの数が減っている中、すみ分けは必要」と話す。協議会は今後、コウノトリがカエルの生息地に近づかなくても良いよう、巣周辺の餌場を増やすことなどを検討する。

 使われていない人工巣塔に来年以降は営巣させるための取り組みや、協議会の活動費の捻出など検討課題は多い。竹内会長は「コウノトリが来たことで地域が分断されるようではいけない。将来的には観光や農業にも恩恵をもたらすようになれば」と思いを巡らせる。

 <世羅町に営巣したコウノトリ>
 昨年3月に電柱に巣を作り、4月に産卵、5月に3羽のひなが誕生した。営巣、繁殖とも県内初だった。今年も3月、昨年と同じつがいの営巣、産卵が確認され、卵は今月16日にふ化した。コウノトリ保全地域協議会は今年、人工巣塔を建設したが、つがいは昨年と同じ電柱に巣を作った。

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