佐世保市長就任から1年 合併旧6町の「アジェンダ」 実行力に疑問視の声…“大起動”なるか

稼働しなくなった船を前に「永続できる体制をつくるのは行政の役割だ」と話す松本さん(右)=佐世保市宇久町

 長崎県佐世保市の宮島大典市長は30日で就任1年を迎えた。九十九島にちなんだ99項目の公約は、多くが4月から始まった市総合計画後期基本計画や当初予算に盛り込まれ、宮島カラーとして姿を見せ始めた。一方、同じ公約集の中で「住みやすい街に大起動する」と掲げた合併旧6町ごとのアジェンダ(政策課題)には解決に向けた実行力を疑問視する声が相次ぐ。

▽命守る瀬渡し
 佐世保港から北西に約60キロの宇久島。港に急患を本土まで運んでいた1隻の瀬渡し船が浮かんでいた。瀬渡し船は海に囲まれた小さな島で「島民の命を守る頼みの綱」だ。島の診療所では手に負えない幾人もの急患の命を救ってきた。ところがその船は2カ月前から港に係留されたままになっている。
 「搬送体制の改善を市に求めたが、動きが見えなかった」。瀬渡し業を営んでいた松本治一郎さん(63)はいら立ちを抑えるように言う。松本さんは2月末、この仕事をやめた。
 脳梗塞や心筋梗塞、交通事故-。診療所から要請があるのはドクターヘリや防災ヘリが飛行できない夜間が中心だ。島民の高齢化が進み、急患発生リスクが高まる中で瀬渡し業者もまた、いや応なく老いが進む。一人また一人と船を下りていった。「人命を守る」との使命感だけでは海上搬送を維持することはもうできなかった。
 松本さんは宮島市長に文書を出し、海上搬送の改善を求めた。しかし市からは「離島の救急搬送を担当するのは県」「民間船舶の利用は必須ではない」とつれない返書が届く。宇久のアジェンダには「離島医療体制の充実」と赤文字で強調して書かれているにもかかわらず。松本さんには「公約破り」と映る。

 「永続できる体制をつくるのは行政の役割。市長は宇久に足を運んで、この窮状をちゃんと見るべきだ」

合併6町ごとのアジェンダ

▽振興の方向性
 アジェンダは江迎、鹿町、吉井、世知原、小佐々、宇久の合併6町ごとに3項目ずつ設定している=グラフィック参照=。「町の伝統文化を生かした宿場町構想の推進」(江迎)「イチゴ、メロンなど特産物のブランド化推進」(吉井)-など、人口減少が進む中、聞き心地がいい言葉でこれからの町づくりや振興策の方向性を示している。
 宮島市長初めての本格予算となった当初予算には、北九十九島エリアの観光振興に向けた事業費などが早速盛り込まれた。宮島市長は進捗(しんちょく)を「アジェンダの3割強はスタートできた」と自負する。
▽「物足りない」
 だが、普段から地元住民の要望や声を市に届けている合併町出身の市議6人の見方は宮島市長の評価とは異なる。本紙が6人に聞き取りしたところ、市長の行政手腕に期待を寄せる声はありながらも、ことアジェンダの進捗については「進んでいない」「物足りない」との認識でほぼ一致する。
 市議の一人は言う。「前市長時代から無理だと言われていた内容も含まれ、本当にできるのか。『問題意識があります』だけで終わっていないか」
 助走期間の1年目を終え、目に見える成果が求められてくる2年目。合併6町の振興策をスピード感を持って大起動させることができるのか、それとも“シャットダウン”になるのか。実行力に注目が集まる。

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