<4>申請阻む偏見や中傷 心理的ハードル 希望って何ですか

病が悪化し仕事を休まざるを得なくなった香さん。制度への偏見が障壁となり生活保護申請は思い留まっている=4月上旬、宇都宮市内

 記者と出会った昨年末からわずか4カ月の間に、宇都宮市在住、香(かおり)さん(29)=仮名=の生活状況は急転していた。

 アルバイト先で手の震えや涙が収まらなくなり、休職を申し出たのは2月下旬のこと。5年ほど前に診断を受けた、うつ病が悪化していた。

 2人の小学生を育てるシングルマザー。人間関係や子育ての悩みなどが積み重なり、自身の不調が深まっていたことは自覚していた。

 通院する心療内科では「(仕事をせず)治療に専念した方がいい」と言われていた。でも、出勤日数を減らしながらも働き、必死に生計を維持してきた。

 「子どもがいる。収入ゼロという訳にはいかないから…」

 無理を続けた結果、ついに心が限界を迎えた。

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 アルバイトの月収は10万円程度だった。現在は職場の社会保険から支給される、給料の6割程度の傷病手当金が頼みの綱だ。

 療養開始から約2カ月。生活は以前より苦しくなった。日々、減っていく銀行口座の残高を見るたび、不安が頭を支配する。

 だから、生活保護の利用も検討した。インターネットで調べると、児童扶養手当なども含めた現在の収入が、保護の受給基準を下回っている可能性があることが分かった。

 ただ、申請には至っていない。保護費の受給者が、批判的な目で見られることを知っているからだ。数年前、香さんも含めたママ友グループ内でのやりとりが脳裏に焼き付いている。

 グループ内のある母親は生活保護の受給者だった。香さんは、別の母親が発した陰口が忘れられない。

 「楽しているのにお出かけできていいよね。もらえるお金も、働いてるうちらと同じ。ばからしくなる」

 自分が困窮して保護を受けたら、同じように生活の一場面を切り取られ、後ろ指を指されるかもしれない-。そんな恐怖を感じた。

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 「生活保護は、貧困の中の最も下の層に対する生活保障と考えられてしまっている」

 社会福祉政策に詳しい岩田正美(いわたまさみ)日本女子大名誉教授は、制度に対する偏見の根源をそう解説する。

 財源が税金であるがゆえ、バッシングも強まる。生活保護を除く、既存の低所得者対策が十分とはいえない中で「生保受給者の状況が、それ以外の人より『1ミリ』でも良いと受け入れられないという周囲の感情が生まれている」と指摘する。

 申請を思い留まる香さん。傷病手当金を受給できる現在の状況で、何とか生活の立て直しを図ろうと考えている。

 「生活保護は本当に最後の手段だと思う。仮に受けても、どんなに仲の良い人にも絶対に言えません」

 瀬戸際に立つ今も、セーフティーネットの心理的なハードルは限りなく高いままだ。

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