能登のごみアート教科書表紙に 最大手、小4算数に採用

自身の作品が表紙に掲載された教科書を手にするあやおさん=七尾市能登島佐波町

  ●加賀在住あやおさん「全国の児童、思い寄せるきっかけに」

 捨てられたプラスチックをベースに、折れた定規やコンパスを組み合わせて生き生きと表現されたイルカ。教科書最大手の東京書籍(東京)が今年度発行した小学4年の算数の教科書の表紙に、能登の海岸に漂着したごみで作られたアートが採用された。手掛けたのは、5年前まで七尾市能登島で活動していたアーティストのあやおさん(31)=加賀市打越町。全国の多くの子どもが目にする場所に掲載され、「被災した能登に思いを寄せるきっかけになってほしい」と期待している。

 あやおさんは愛知県一宮市出身。2017年に能登島に移住した。豊かな自然と、素朴な暮らしが決め手になった。毎日のように海に通ううち、漂着ごみを使って海の生き物を創作する活動を始めた。19年に結婚して加賀へ引っ越したが、材料集めのため、能登の海岸を訪れては友人とともにごみ拾いを続けた。

 東京書籍から制作の依頼を受けたのは21年のことだった。インターネットで作品を知った担当者が会議で提案したところ、海のごみで作った海の生き物というコンセプトが、環境問題に興味を持つきっかけになると好評だったという。

 東京書籍の教科書は上下2冊で、七尾湾に生息するイルカと、ウミガメをかたどった作品がそれぞれ使用された。

 納品後、あやおさんは男児を出産。子育てをしながら能登への恋しさを募らせ、移住しようと珠洲市三崎町小泊の一軒家を購入した。リフォームの計画を進めていたさなかに、能登半島地震が発生。購入した家は無事だったが、引っ越しは見送り、ボランティア団体の拠点として提供した。

 4月上旬、地震後初めて能登島に入ったあやおさん。家屋が倒壊し、変わってしまった風景に心を痛めた。それでも、海は地震前のように透き通っていて、いつまでも波穏やかであってほしいと願いながらごみを拾った。

  ●小4算数、県内16市町で使用

 東京書籍の小学4年の教科書は全国で用いられており、石川県内では小松、能美、川北を除く16市町で採用されている。東京書籍の担当者は取材に「この表紙が、被災地の皆さまの癒やし、元気の源となり、子どもたちが算数の学習にポジティブに取り組むきっかけとなってほしい」とコメントした。

 今後はボラやブリ、イカなど能登近海の生き物を題材に創作したいと意気込むあやおさん。「能登のこと、被災したことが忘れられてしまわないように発信し続けたい」と海岸を歩く。

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