【憲法記念日】理念は成熟していくか(5月3日)

 憲法の理念は守られ、成熟していくのか。施行77年を迎え、問われる分野は多岐に及ぶ。きょう3日の憲法記念日に、どんな社会を将来世代に用意すべきかを考えたい。

 防衛関連の動きは加速している。集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が施行され、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を掲げる安全保障戦略が打ち出されたのにとどまらない。次期戦闘機の第三国への輸出解禁が今年3月に閣議決定された。

 英国、イタリアと共同開発したのを対象とし、輸出は日本との協定締結国に限定される。戦闘下の国に輸出しないとの縛りはあるとはいえ、殺傷能力の高い戦闘機を他国に供給する行為自体に懸念を覚える。戦争放棄を堅持し、世界平和への貢献をうたう姿勢との整合性に疑念が残る。

 国会など開かれた場で審議が尽くされたのならまだしも政府、政権党の手元で戦後日本の形が転換されていく事態を危惧する。無関心であってはなるまい。歯止めをかけるのは主権者たる国民だと、繰り返し胸に刻む必要がある。

 多様化社会への模索は続く。性的少数者への理解増進法は、性的志向の区別なく人権を尊重し、不当な差別を否定する。ただ、不当な差別とはいったい何か、不当でない差別はあるのか。議論はされても疑問は晴れない。

 全ての国民が安心して生活できるよう留意する条項が付されたことで、「多数者が許容する範囲内でしか人権は認められない」との失望が関係者に広がった。多様性を認め合う社会づくりは、なお途上にあると受け止めるべきだ。

 同性婚を認めない民法と戸籍法の規定を巡っては、違憲判決が相次ぐにもかかわらず、法整備は進んでいない。選択的夫婦別姓は経済界も求めている。女性の活躍の場を広げる社会の要請がありながら、保守系議員の抵抗などもあって壁は高いのが実情だ。

 共同通信社の世論調査で、同性婚と選択的夫婦別姓に7割強が賛成した。岸田首相が意欲を示す憲法改正の国会論議は、急ぐ必要なしと6割強が答えている。現政権は緊急事態時の国会議員の任期延長などを論点に据える。調査結果は、世論の望む優先度との隔たりを物語る。国民不在とならぬよう、動向を見ていかねばならない。(五十嵐稔)

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