増える「名札は名字だけ」 親しみやすさよりカスハラ対策…職員の要望に応えフルネームから移行相次ぐ 県内自治体

顔写真を廃止し、名字のみの表記に変更した指宿市職員の名札=同市役所

 鹿児島県内の自治体で、職員が業務中に身に着ける名札をフルネームから名字のみの表記に変更する動きが広がっている。職員のプライバシー保護に加え、過剰な要求や不当な言いがかりなどのカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の一面もあるようだ。

 鹿児島、指宿、薩摩川内、志布志、南九州の5市は4月1日から名札の表記をフルネームから名字のみに変えた。交流サイト(SNS)で個人攻撃したりするカスハラ被害が全国的に相次いでおり、職員からの要望を受け変更に踏み切った。

 指宿市は名札への顔写真の掲載も取りやめた。人事秘書課の木下英城課長はこれまでにカスハラ被害があったわけではないとした上で「先んじて手を打った。職員には不要な心配を抱えずに職務に専念してほしい」と狙いを語る。

 南日本新聞の調べでは、4月時点で県内43市町村のうち8市が名字のみの名札を採用。東串良町と和泊町は「フルネームと名字のみのどちらにするか個人の判断に委ねている」という。

 昨年9月から名字のみ表記を導入した霧島市では、市民から変更についての意見や苦情は特にないという。職員からの要望で変更した経緯があり、総務課の担当者は「県外では名前から個人情報を検索される事案があったと聞いた。ほっとしている職員も多いのでは」と話す。

 鹿児島市の田口賢治人事課長は、昨年8月にバスやタクシー運転手の氏名表示義務が廃止されたことを挙げ、「フルネームでないとサービス低下につながるわけではない。今の名札もこれで完成形とは思っていない」と話す。
 フルネーム表記の自治体も、名字のみへの変更に前向きだ。日置市は「全国的に変更の動きがあり検討中」。枕崎市、西之表市、屋久島町は、具体的な計画は進んでいないとした上で「他自治体の取り組みを情報収集して検討したい」とした。姶良市は一部の部署で導入済み。他にも複数の自治体が、担当課レベルで変更すべきか議論している。

 人口規模が小さい町や村役場では住民との距離感の近さを大切にしている実態も見受けられた。「地域密着の仕事なので名前を覚えてもらったほうが仕事がしやすい」(中種子町)。

 岡山市職員時代に不当要求対応にも携わった宇那木正寛鹿児島大学法文学部教授(行政法)は、名札の着用が職業意識を高め、住民に安心感を与える面もあったと振り返る。しかし、近年は不特定多数の人に提示するメリットよりデメリットの方が大きくなってきたとし、「名字のみへの変更も中途半端感が否めない。部署ごとに、まずは名札の在り方から検討するべきだ」と指摘した。

〈関連〉どこの自治体が名字のみ名札へ移行し、検討しているのかが分かる図表

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