『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』映画史を塗り替えた、20世紀最大の神話

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』あらすじ

遠い昔、遥か彼方の銀河系で…。帝国軍のダース・ベイダーに捕まった同盟軍のレイア姫からメッセージを預かったドロイド2体、C-3POとR2-D2は、惑星タトゥイーンで地元で暮らす青年ルークとかつてのジェダイ騎士で隠遁生活を送る老人オビ=ワンと出会う。メッセージを同盟軍に渡そうと、一行は宇宙船ミレニアム・ファルコン号の船長ハン・ソロとその仲間チューバッカと共に宇宙へと飛び立つ。

ルーカスとスピルバーグとの間に交わされた、ある“賭け”


「これは、私が12歳だったころのガラクタなんだよ。子供のころに好きだった本や映画やコミックのすべてだ。筋書きは単純で、悪に対抗する善というもので、私が覚えている楽しいことやファンタジーをすべて盛り込んだ映画になっている。この映画を表す言葉は "fun(楽しい)”だ。(中略)『スター・ウォーズ』は映画に楽しさを取り戻し、かつてのような映画がまだ作れることを熱烈に証明したんだ」(*1)

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)という、ジョージ・ルーカスが少年だった頃の夢を掻き集めて作った一本のフィルムは、全世界で7億7,500万ドル以上の興行収入を記録。玩具、小説、コミック、ビデオゲームにフランチャイズ展開され、多くのSFファンを熱狂の坩堝に叩き込んだ。映画史を刷新しただけにとどまらず、アメリカのポップカルチャーそのものを書き換えてしまったのである。

ルーク・スカイウォーカーという最高のヒーロー。ダース・ベイダーという最高の悪役。ジョン・ウィリアムズによる勇壮なテーマ曲。 “May the Force be with you”(フォースと共にあらんことを)という強烈なパンチライン。“A long time ago in a galaxy far, far away‥‥”(遠い昔 はるかかなたの銀河系で…)で始まる有名なオープニング・ショット。『スター・ウォーズ』には、偉大な映画に必要な要素が全て詰まっている。

これだけの成功を収めることは、ルーカス本人にとっても予想外。作品に自信が持てず、ブライアン・デ・パルマら友人たちに開発途中のラフカットを観てもらったが(まだ未完成の特殊効果の代わりに、古い戦争映画の一部が使われていた)、その評価も決して芳しいものではなかった。ただ一人スティーヴン・スピルバーグだけが、「こいつは史上最大の映画になるぞ!」と大絶賛するも、その場にいた全員が“Poor Steven(かわいそうなスティーブン)”とたしなめた…という逸話は、ファンにはよく知られている。

そしてルーカスが、当時『未知との遭遇』(77)を製作中だったスピルバーグに、お互いの映画の利益から2.5%ぶんをトレードしようと提案したのも、ファンにはお馴染みのエピソードだ。『スター・ウォーズ』の大ヒットを確信していたスピルバーグは、このオファーを快諾。今なおルーカスは『未知との遭遇』の利益から2.5%、スピルバーグは『スター・ウォーズ』の利益から2.5%ぶんを毎年受け取っている。もちろんこの賭けは、スピルバーグの大勝ちであることは言うまでもない。

英雄譚の原型的構造


ルーカスが『スター・ウォーズ』の構想を練り始めたのは、管理社会に対する恐怖を描いたディストピアSF『THX 1138』(71)を完成させた後のこと。もともとは、自分がファンだった1930年代の連続活劇映画『フラッシュ・ゴードン』(36)をリメイクする野望を抱いていたが、映画プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスがすでに映画権を買い取っていたことを知り、オリジナルのストーリーを創り上げたのである。

この映画には、ルーカスが語るところの「子供のころに好きだった本や映画やコミックのすべて」が詰まっている。主人公ルーク・スカイウォーカーの故郷タトゥイーンは、フランク・ハーバートの小説「デューン」に登場する惑星アラキスに酷似しているし、雄大な砂漠の風景は『アラビアのロレンス』(62)を彷彿とさせる。

C-3POとR2-D2の関係性は『隠し砦の三悪人』(58)の太平と又七、ハン・ソロの人物造形は『用心棒』(61)の桑畑三十郎と、黒澤映画からのインスパイアも見受けられる。デス・スターに攻撃を仕掛けるクライマックスは、第二次世界大戦を描いた戦争映画『暁の出撃』(55)をモデルにしたことは有名な話だ。

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』予告

さらにルーカスは、神話学者ジョーゼフ・キャンベルが発表した研究本「千の顔を持つ英雄」を参考にして、「①旅立ち」、「②通過儀礼」、「③帰還」という英雄譚の原型的構造を組み込んだ。伝統的な神話と「12歳だったころのガラクタ」を掛け合わせることによって、彼は20世紀最大の神話を生み出したのである。

だが、この企画は映画会社から敬遠された。当時SFというジャンルが一般層に受け入れ難いジャンルだったこともあって、ユナイテッド・アーティスツからも、ユニバーサル・ピクチャーズからも、パラマウント・ピクチャーズからも、プロジェクトへの出資を断られてしまう。唯一興味を示してくれたのは、20世紀フォックスの社長アラン・ラッド・Jrだけ。彼は、『アメリカン・グラフィティ』(73)で見事な青春映画を撮り上げたルーカスの才能を信じていた。

結果的に、『スター・ウォーズ』の配給を決めたアラン・ラッド・Jrの決断は大正解だった訳だが、本人は内容をきちんと理解していなかったことを認めている。

「今でこそ、この映画を観てそれが何であるかを知ることができるけど、観る前はこんなタイプの映画はなかったし、説明することもできなかった。毛むくじゃらの犬が宇宙船を操るような映画って、つまり何なんだ?」(*2)

小気味の良いテンポのストーリーテリング


筆者はこの映画を観るたび、小気味の良いテンポのストーリーテリングに唸らされてしまう。普通の映画ならばもっと丁寧に、時間をかけて描かれるべき友情や恋慕や師弟関係が、あっという間に醸成される手際の良さ、無駄のなさ。様々な神話を換骨奪胎した原型的構造によって、流れるように物語が進行していく。演出家ジョージ・ルーカスの面目躍如だ。

デス・スターの設計図を携えたR2-D2とC3POが砂漠の惑星タトゥイーンに送り込まれ、ルーク・スカイウォーカーの農場に辿り着くまでにおよそ15分。ルークは若い青年らしくアドベンチャーを夢見ているが、銀河系の中心部から遠く離れた辺境で農場の手伝いをしているだけでは、どうすることもできない。だからこそ、ホログラムのレイア姫を見て、「誰だろう。美人だ」とその美しさに惹かれると同時に、まだ見ぬ冒険への胸の高鳴りも感じている。この物語の主人公は、等身大のヒーローなのだ。

やがてオビ=ワン・ケノービと行動を共にする決意を固め、モス・アイズリー宇宙港でハン・ソロとチューバッカと出会い、宇宙船ミレニアム・ファルコン号で惑星オルデランに向かう。ルークは目隠しヘルメットでフォースの訓練をするが、実はオビ=ワンから指導を受けるのはこの時だけ。

(C)2024 Lucasfilm Ltd.

ベスト・キッド』(84)のダニエルとミヤギのように、もしくは『クリード チャンプを継ぐ男』(15)のクリードとロッキーのように、師弟の絆を描くにあたっては特訓のシーンが必要不可欠だが、『スター・ウォーズ』はものの3分程度。オビ=ワンを演じるアレック・ギネスのエレガントな立ち振る舞いと、ルークを演じるマーク・ハミルのイノセントな存在感によって、ジェダイ・マスターとパダワン(弟子)の関係が見事に構築されている。

おそらく、ここまでが英雄譚の原型的構造における「①旅立ち」に該当するのだろう。時間にして、ちょうど折り返し地点の60分程度。ミレニアム・ファルコン号は強力な牽引ビームによって、デス・スターへと引き摺り込まれてしまう。「②通過儀礼」の始まりだ。

セリフがいっさい無いエンディング


監房に囚われていたレイアを救い出すも、ノープランすぎる救出作戦に「マヌケね」と言われてしまうルークとハン・ソロ。「鼻っ柱が強い。でもホレそうだぜ」と語るハンに対し、ルークは複雑な表情をみせる。出会ってわずか数分たらずで、レイア姫をめぐる三角関係ができあがっている。ゴミ処理区画に逃げ込み、あやうく粉砕機に潰されかけるが、R2-D2のファインプレーで九死に一生を得る。危機的状況を脱したことで、今度は仲間意識が築かれる。淡い恋慕と友情。見事な手際だ。

オビ=ワンはダース・ベイダーとライトセーバーを交え、突如悟ったかの表情を浮かべてベイダーの攻撃を真正面から受ける。師の最期に絶叫するルーク。この瞬間、フォースを学ぶ者だった彼は、フォースを操る者へと覚醒する。師匠を失う「②通過儀礼」を経て、彼は精神的な成長を遂げたのだ。

デス・スターから脱出したミレニアム・ファルコン号は、追ってきたTIEファイターとの空中戦に突入。ジョン・ウィリアムズの音楽と完全にシンクロした、ショットの繋ぎが本当に素晴らしい。「1:砲撃するTIEファイター」、「2:銃座から応戦するルーク」、「3:銃座から応戦するハン」、「4:状況を見守るレイアとチューバッカ」、「5:消火活動でサポートするR2-D2とC3PO」の5ショットが、巧みにエディットされている。チューバッカが左を向いてから顔を正面に戻すと、次はレイアが正面から右を向くショットをインサートしているのも、編集にリズムを生み出している。

戦いは、いよいよデス・スターの最終決戦へ。Xウイングに搭乗しようとするルークは、メカニックからR2を別のドロイドに交換するかどうか尋ねられるが、「まさか。戦友なんだ」と答える。出会ってから数日しか経過していないはずなのに、修羅場を経てR2-D2はすっかり相棒になっていた。出撃したルークは見事目標に魚雷を命中させて、デス・スターを破壊するが、R2は被弾してボロボロの姿になってしまう。

(C)2024 Lucasfilm Ltd.

ラストの「王座の間」のシークエンスでは、レイアからルーク、ハン、チューバッカにメダルが授与されるのだが、その様子を見つめるC-3POだけを画面に収めることによって、「R2は元通りに修復できなかったのでは?」という小さなサスペンスが生まれている。観客の不安がピークに達した頃に、カメラが下にパンすると、そこに映し出されるのは元気なR2の姿。C-3POとR2-D2の身長差をうまく利用した映像トリックだ。

そしてこのシークエンスは、俳優たちのセリフがいっさい無いサイレント・パートでもある。トーキー以前の映画黎明期のような演出で、ジョージ・ルーカスはこの物語を締め括った。あまりにも特殊な、それでいて王道なエンディング。英雄は遂に「③帰還」を果たした。

特撮工房ILMによるSFXは、確かに映画の歴史を変えた。ジョン・ウィリアムズの音楽は、間違いなく永遠に語り継がれる名曲だ。登場するキャラクターもみんな魅力的。だが筆者は、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を普及の名作へと押し上げたのは、何よりもまずジョージ・ルーカスの比類のないストーリーテリング能力にあると確信している。

(*1)https://time.com/4153583/star-wars-the-years-best-movie/

(*2)https://www.forbes.com/sites/judebrennan/2014/05/01/the-man-who-green-lit-star-wars-the-most-important-movie-mogul-youve-never-heard-of/?sh=7ed6663f2f78

文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。

今すぐ観る

作品情報を見る

『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』ディズニープラスにて配信中

(C)2024 Lucasfilm Ltd.

© 太陽企画株式会社