火災の老舗旅館再開へ 福島県いわき市の「新よね」 「支えてくれた人々に恩返し」

「気軽に過ごせる旅館を目指す」と語る鈴木翼さん(右)と妻千尋さん

 「150年の歴史に幕を下ろすわけにはいかない」。昨年4月の火災によって休業している福島県いわき市小名浜の老舗旅館「新よね」は、焼失部を新築して年内の営業再開を目指す。観光客や合宿の生徒らから人気を集めた宿には、地域から存続を求める声が寄せられる。5代目経営者の鈴木翼さん(38)は「気軽に過ごせる旅館にしたい」と思い描く。

 旅館は鈴木さんの高祖母が明治初期に構えた。家族で経営し、1958(昭和33)年に現在地へ移転。日本庭園や能の舞台を設けた純和風の宿として多くの客に愛されてきた。

 近年は厄災に繰り返し見舞われた。東日本大震災では津波が押し寄せ、2カ月にわたり休業。再開後は東京電力福島第1原発事故の影響により、原発作業員の受け入れ対応に追われた。2020(令和2)年以降はコロナ禍で利用客が減少。火災が追い打ちをかけ、旧館や80畳の大広間、能舞台などを失った。

 鈴木さんは途方に暮れたが、地域住民から「復活を楽しみにしている」「負けずに頑張って」などと励ましを受け、出火当時の利用者からも応援の声が届いた。旅館が多くの人に愛されていることを知り、活力が湧いた。

 4代目の母恵美子さん(68)らと対話を重ね、「支えてくれた地域や人々に恩返しをしたい」と妻千尋さん(39)とともに経営を引き継ぐことを決めた。近く新たな建物が着工する。再開後の旅館名は「湊(みなと)の宿 新よね」にしようと考えている。「湊」には「集まる」という意味があり、人が気軽に集う場所を目指す。

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