息子が体重700グラムで誕生…脳性まひ・小頭症「3日しか生きられない」と言われ…育児経験から母親が商品開発、福祉用具ブランド立ち上げ

体重わずか700グラムで生まれてきた、島根県松江市に住む山崎生翔くん。小頭症・脳性まひという障害を抱えています。
そんな生翔くんの育児経験から、母親の絵美さんはある商品を開発しました。そこに込められた思いとは。

「これ、決めた!はい、じゃあこれ読もう!キラキラ雪だるま、雪がたくさん降っているね」

選んだ絵本を嬉しそうに読んでいるのは、島根県松江市に住む山崎生翔くん、9歳。あだ名は「いっくん」です。

いっくんの母 山崎絵美さん
「欠かせないですね、いっくんの存在は。」

そう話すのは母親の山崎絵美さん。3人きょうだいの末っ子であるいっくんは、家族のアイドル的存在だといいますが、実は…

いっくんの母 山崎絵美さん
「"脳性まひ"と、"小頭症"っていう病気があります。」

いっくんは、体重わずか700グラム、呼吸も心拍もほとんどない状態で生まれてきました。

いっくんの母 山崎絵美さん
「新生児仮死っていう状態で生まれたので、もう生まれた時には自発呼吸もなくって。最初、3日しか生きられないって言われました」

懸命な救命措置で一命をとりとめますが、いっくんの脳には重い障害が残りました。

いっくんの母 山崎絵美さん
「みんな誰のせいでもないよっていうふうにその時は励ましてくれたんですけども、でも、私が産んだから。私のせいだって、すごく自分を責めました。」

絵美さんに、いっくんの母子手帳を見せてもらいました。
健診の結果や予防接種の記録、日々の成長の様子を記すためのものですが・・・

いっくんの母 山崎絵美さん
「ハイハイができるようになった、はい、いいえ…もう全然『はい』に丸がつけられなかった。
なんか、母子手帳はできないことを証明する手帳みたいな、なんかそんな気がしたんですよ。すごく見るのが辛かったですね」

超低出生体重児だったいっくんの成長は、母子手帳に書いてある成長の目安やグラフのどこにも当てはまりませんでした。
絵美さんは知らず知らずのうちに傷ついていたといいます。

いっくんの母 山崎絵美さん
「障がい児本人や医療的ケア児本人に寄り添う商品ってすごいたくさんあると思うんですよ。いろんな福祉用品があったりとか、服だったりとか。でも、その家族に寄り添う商品って、探してみても本当になくてっ。」

そこで、絵美さんは立ち上がります。

この日、絵美さんの姿は、地元企業のポスターやチラシのデザイン・印刷などを手がける松江市の会社「トレンド」にありました。
3児の母として育児に奮闘する傍ら、フルタイム・正社員として働いているのです。

ここで、絵美さんが中心となって立ち上げたのが…

トレンド 山崎絵美さん
「母子手帳をきっかけに、このcocoeのノートを作ろうって。一から立ち上げました。」

“心を笑顔に”というコンセプトで、障がい児や医療的ケア児の家族の声を形にしようというブランド「cocoe」。
まず最初に開発したのが、「障がい児・医療的ケア児のための育児ノート」です。

入院歴や既往歴、血圧や血中酸素濃度、輸血歴、てんかん発作の有無など、通常の育児ノートにはないページが多く設けられています。

そして、思い出を残すページは…

トレンド 山崎絵美さん
「私が昔使っていた育児ノートの思い出ページには、全てタイトルが入っていました。お食い初めとかお宮参りとか七五三とか。
当時のいっくんの状況では、その思い出のどこも埋めることはできなかった。なので、思い出のページのタイトルは全て外しました。お母さんたちがそれぞれの思い出として、その時に残せるものを残してほしいなと思ったので。」

身長・体重の「成長グラフ」も工夫されています。

トレンド 山崎絵美さん
「体が小さいいっくんの場合、グラフはどこにも記入できなかった。だから、何グラムで生まれても最初から右に上がっていくグラフがつけられるように、数字を全てとりました。ちゃんと成長しているよって感じてもらえるように。」

その子の成長に合わせて自由に記入できるよう、縦軸・横軸ともに数字は空欄になっています。

自らの経験から生まれたノートは2021年に販売を開始すると、全国の障がい児・医療的ケア児の家族から大きな反響がありました。

「まさに理想のノートで全部が優しくて、涙が出ました。」(東京都・女性)
「自閉症児をもつ親です。色んな出来事でいっぱいで、後から読んで嬉しくなりました。」(千葉県・女性)

新たな商品も次々と生まれています。

「福祉用品にも選ぶ楽しさを」をコンセプトに作られた、車いすマークのマグネットシート。
機能性・安全性が重視され、なかなかデザインまで行き届かないものが多いなか、cocoeの商品はカラフルでオシャレなバリエーションが人気です。

また、発売と共に多くの注目を集めているのが「車いすホルダー」という商品です。

トレンド 山崎絵美さん
「これは私の経験から生まれたんですけど、いっくん、体がすごく小さかったので、今みたいな車いすバギーではなくってベビーカーで全然間に合っていたんですね。
その当時、大阪の病院でリハビリ入院をしていて、ちょっと混んだ電車に乗っていたんですが、同じ車両に乗っていた方に『ベビーカーたためよ』ってぼそっと言われたことが忘れれらなくて。確かに、混んでいるしベビーカーは邪魔だよなと、でもいっくんの場合は車いすとして使っているし…そういうところから生まれた商品です。」

車いすホルダーは、ベビーカーなど一見福祉用品ではないものを「車いすとして使用している」ということを、周囲の人に一目でわかってもらうためのもの。
これも、絵美さん自身の経験から生まれました。

こうした商品を引っ提げて、4月に東京で行われた日本最大級の子どもの福祉用具展「キッズフェスタ」に初出展。
1万人以上が来場するなか、持って行った商品はほぼ完売したといいます。
自分のように悩んでいるより多くの家族に届くように、「cocoe」は活動の幅を広げています。

トレンドの徳田社長は、絵美さんについて…

トレンド 徳田裕成社長
「もう、パワフルの一言!日々仕事と家庭との両立をされているっていうだけでも僕からしたら大尊敬なんですが、仕事においても彼女は人一倍責任感が強い。
cocoeの事業に対しても、自分がたくさんのお母さんに貢献したいっていう思いで主体的にいろんなことを進めてくれるので、もう感謝しかないです。」

自分自身の経験をもとに、様々な商品を生み出してきた絵美さん。
いっくんに、大切なことを沢山教えてもらったと話します。

トレンド 山崎絵美さん
「普通って何だろうって、ずっと考えてきました。きれいごとばかり言っていられないし、大変だし、本当に傷ついたりすることもたくさんあったんですけど…でも、なんか、『その子にとっての普通でいいんじゃないの』って思えるようになりました。
今、多様性の時代って言われてますけど、私いっくんに出会わなかったらそういう多様性って簡単に受け入れられなかったかもしれないって思うんです。だから、違いを認め合うこととか、いっくんには本当にいろんなことを教えてもらっている。かけがえのない存在です。」

そして、cocoeの商品を通して、絵美さんが願うことは・・・

トレンド 山崎絵美さん
「私は、同じ立場のお母さんたちの心に寄り添ってあげたい。
救えるわけではないかもしれないけど、少しでも寄り添って、少しでも役に立つアイテムであってほしいなと願っています。」

障がい児・医療的ケア児の家族の心を笑顔にしたい…
そんな母の優しい願いが島根から広がっていきます。

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