何が変わり、変わらないか

 2年前の「サラリーマン川柳」の秀作を、いま読み返すとほろ苦い。〈あいさつはもう打ちました?熱は出た?〉。新型コロナのワクチン接種をめぐり、多くの人が交わした「あいさつ」だろう▲マスクに手洗い、ワクチン、「密」を避ける…。「予防」に心を注ぎ、用心と警戒心が社会に充満した頃から何が変わり、何が変わっていないか。感染症法でコロナが5類に移行して1年たった▲変わったこと。出勤、出張、帰省、観光と、多くの場面で止まっていた人の動きは活発化した。会議や飲食店の席を仕切ったアクリル板はいま、日用品に再利用されている▲本紙が取った「移行1年」にまつわるアンケートの回答が、きのうの紙面にある。その一つ。〈会社内の慣例的な飲み会が減ったり、出張がリモート(遠隔)会議になったり〉…。過去の「当たり前」が見直された、と▲コロナ禍では、感染すれば「不用心だ」と責め、帰省すれば「帰れ」とたたく誰かがいた。“とがめる社会”は変わったか。残念ながら、そうとは思えない▲〈風邪を引くいのちありしと思ふかな〉後藤夜半(やはん)。健康で、普通の生活ができるありがたさを、息の詰まるような予防と警戒の時を過ごして私たちは知った…はずだった。〈いのちありし〉の重みを忘れていないか、わが胸に問う。(徹)

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