【震災・原発事故13年】手話の語り部育成 教訓継承、誰一人取り残さず 福島県聴覚障害者協と連携

「誰一人取り残さない防災」を目指し講座開設の準備を進める青木さん

 NPO法人富岡町3.11を語る会は6月から、福島県内で東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の教訓を手話で伝える語り部の育成に乗り出す。県聴覚障害者協会と連携して講座を開設する。音声を聞き取りにくい人にも震災、原発事故の経験と教訓を伝えられる環境を整え、「誰一人取り残さない防災」の実現につなげる。被災者の生の声を語り部が耳の不自由な人に伝える役割も想定しており、双方向で理解を促す。

 富岡町3.11を語る会や県聴覚障害者協会によると、語り部には未曽有の複合災害の経験や課題を後世に継承する役割があるが、現時点で県内に手話を使って活動している人材はいない。震災の教訓を学ぶ「ホープツーリズム」などで全国から聴覚の不自由な人が震災と原発事故の被災地やアーカイブ施設を訪れても、映像やリーフレットなどの文字だけでは十分な情報を得にくいのが実情だ。協会には「手話ができる語り部がいてほしい」との声が寄せられていたという。

 講座により災害発生当時の状況や避難生活を強いられた人々の生活や苦悩、復興への思いを伝えられる人材を育てる。ろう者と手話通訳の資格を持つ人を対象に最大24人の語り部を育成する。受講者は、語る会代表で県内の語り部団体の連携組織「東日本大震災・原子力災害ふくしま語り部ネットワーク会議」の会長を務める青木淑子さん(76)らによる専門的な指導を受ける。東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)や、とみおかアーカイブ・ミュージアム(富岡町)、震災遺構・請戸小(浪江町)など浜通りの施設や被災地を視察する。震災と原発事故に関する基本的知識や被災者の思いを学び、語り部として適切に伝えられる表現の手法などを習得する。

 手話の語り部は県聴覚障害者協会に所属する形とし、要請を受けて各地に派遣する仕組みとする方向で検討する。将来的には手話の習得に意欲を持つ人にも門戸を広げることを想定している。青木さんは「被災地に関心を寄せる誰もが震災と原発事故の教訓を学び、今後起こりうる災害に備えるための知識を身に付けられる環境をつくりたい」と決意する。協会の吉田正勝会長(66)は「耳が聞こえない人にも手話によるコミュニケーションで福島の状況を知ってもらえる。共生社会の実現につながる」と期待を寄せる。

■6月から講座 郡山や富岡など 月内に募集開始

 講座は6月から10月までに郡山市や富岡町などで全4回開く計画で、具体的な日程を調整している。11月に語る会が主催する伝承祭などで発表する機会も設ける。講座の修了後も語る会が支援し資質を高める。講座の受講料は無料(資料代など除く)。定員はろう者と手話通訳者それぞれ12人。5月中に募集する。

 問い合わせは県聴覚障害者協会へ。

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