明治期から変わらぬ「三角点」 全国で3カ所、群馬の有志が保存会

白髪岩山頂にある原三角測点

 群馬県藤岡市と下仁田町にまたがる「白髪岩(しらがいわ)」の山頂(標高1512メートル)に設置された「原三角測点」標石を、近代日本の測量史を示す貴重な資料として保存や活用しようとする機運が高まっている。関係者は標石のレプリカを作成したり、保存会を立ち上げたりして、認知度を向上させようと模索する。ただ、標石は両市町の境界付近にあるため、保護や文化財指定に向けた取り組みが一筋縄ではいかないといった課題もある。

原三角測点 地形図作成のための測量基準点として、内務省地理局が1880年前後に全国に50カ所ほど設置した。陸軍が84年に測量事業を引き継いだことで、原三角測点は現在も使われる「一等三角点」に置き換わっていった。

 白髪岩の原三角測点は内務省地理局が1882(明治15)年に設置した。四角すいの上部を切ったような形で、高さは約40センチ。材質は南牧村産出の「椚(くぬぎ)石」と同じ特徴を持つデーサイトで、同村から下仁田町を経由して運搬したと推定されている。

 国内ではほかにも、米山(新潟県)と雲取山(東京都・埼玉県)の各山頂で原三角測点の現存が確認されている。この2カ所は新たな一等三角点が置かれる際に現在の位置に移った可能性が高く、白髪岩の標石のみが設置当初のまま、同じ場所に位置している。

 こうした歴史的背景を知った、南牧村で石材店を経営する青木清二さん(71)は1月、「現地に行けない人にも見てほしい」と標石のレプリカを町自然史館に寄贈した。

 青木さんは江戸時代から続く椚石の採掘元の5代目。昨年4月に白髪岩を訪れた際、価値を広めるためにレプリカの作成を思い立ったという。標石の側面に彫られた「原三角測點(てん)」「明治十五年十月」などの文字は、同町で石材店を営む市川秀明さん(76)が拓本を基に再現した。

 4月には有志が保存会を立ち上げ、同町から白髪岩山頂までのハイキングを初めて実施した。自治体関係者や登山愛好家ら26人が御荷鉾(みかぼ)スーパー林道から約1時間の山道を歩き、原三角測点を間近で見学した。

 保存会代表の岩崎正春さん(74)は「地域の財産として守るために、存在を広く知ってもらいたかった」と意図を明かす。参加者からの助言を受け、今後は標石付近に定点カメラを置き、史料を見守る方針だ。

 保存や活用を巡っては課題もある。白髪岩の原三角測点に関する論文をまとめた県立自然史博物館の菅原久誠(ひさなり)学芸員(49)によると、標石は行政境界付近にあるため、自治体が保護や文化財指定に着手しづらいという。現代の測量方法では公式に位置が定まっておらず「まずは測量に基づき所在を明らかにする必要がある」と指摘。その上で、さまざまな利害関係者が連携し、文化的価値の検討を進めるよう求めている。

実物の原三角測点を観察するハイキング参加者

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