被災事業者救済のため岩手県が10年余りに渡って続ける支援制度 取り組みの成果と新たな課題とは?【復興への羅針盤】

「復興への羅針盤」です。東日本大震災で被災した事業者の救済のため、2014年に岩手県が始めた支援制度が今も続いています。被災事業者に寄り添う取り組みの成果と新たな課題についてお伝えします。

5月8日、被災事業者を支える立場の地元商工会議所や金融機関を対象にしたセミナーが岩手県釜石市で開催されました。これは県沿岸広域振興局が「被災中小企業等支援事業」の一環として2014年から行っているものです。

セミナーで講演した県から経営指導を委託されている会計事務所の担当者は、被災事業者の経営課題を次のように指摘します。

(PwC Japan 公認会計士 梅木 典子 さん)
「数字でちゃんと考える。見える化することで解決策を探していくことができるようになると考えている」

県が震災翌年の2012年に被災した事業者の実態調査のために行ったアンケートでは、回答した県内の被災事業者のうち6割以上が従業員数10人未満の規模の小さな事業者であることが分かりました。

こうした企業の多くが地域の人口減少などを背景に、震災前から人材確保や育成面で課題を抱えていて、その結果、数字やデータを経営に生かせていない傾向があるといいます。

(橋勝商店 橋詰 真司 社長)
「データはたまっていくし、それが合っているのか合っていないのか、今じゃ考えられないですが赤字なのかどうなのかそんなの気にしないで、それぐらい必死でもがいていた」

陸前高田市の食品業「橋勝商店」の社長、橋詰真司さんです。被災した直後は、生きる事に精一杯で経営どころではなかったと話す橋詰さん。その影響が売り上げにも重くのしかかりました。

(橋勝商店 橋詰 真司 社長)
「震災前に1憶2000万円あった売り上げが4000万円くらいにぐっと下がって」

橋詰さんは2022年、市内に総菜の専門店をオープンさせました。毎日手作りする20種類以上のおかずが人気です。橋詰さんと二人三脚で店を切り盛りする専務で妻の智早子さんは、被災した当時を次のように振り返ります。

(橋勝商店 橋詰 智早子 専務)
「正直すごく悩んでいて、何も先が見えない。一番金銭面で苦しかった。未来が見えないじゃないですか。お金に追われれば追われるほど」

食品の卸売りが主な生業だった橋勝商店は、取引先が軒並み被災し売り上げが激減したことから被災から3年後の2014年、新たに総菜と弁当の販売を始め業態の転換による再建を図りました。ところが…

(橋勝商店 橋詰 真司 社長)
「弁当がどのくらい儲かっているんだろう、分からないというのがあって」
「資材と切り分けたり惣菜と切り分けたり人件費もどう分けたらいいかというのを専門的にお願いできたらいいなと現状の数値化をお願いしたのがきっかけです」

橋詰さんは業態の転換の翌年の2015年から県の支援制度を活用して経営指導を受けています。指導は1回につき2時間程度無料で行われ年度内に複数回の指導を受けることができます。

専門家による指導で橋詰さんが徹底して行ったのが、売れ行きの傾向など経営に関わるあらゆる要素を数値化し、経営状況を数字とデータで正確に把握することでした。

(橋勝商店 橋詰 真司 社長)
「売れて回転はしているんですが、めちゃめちゃ汗かいて一生懸命売ってこれしか儲からないのかという状況はそこである程度は把握できました」

コロナ禍でも経営指導はオンラインで続き、専門家の助言などを基に橋詰さんは、新型コロナの収束も見越して新たな店もオープンさせました。赤字続きだった経営も安定しつつあるといいます。

(橋勝商店 橋詰 真司 社長)
「今本当に苦しい中ずっとやってきている中で、先が見え始めるまで伴走してくれているのでそういう面では感謝ですし、今度は自分たちの力で継続しながら会社を良くしていけるのが一番だと思っている」

被災地は今、人口減少に加えて物価の高騰や歴史的な円安など新しい課題が山積していて被災事業者に寄り添う側も新たな対応に迫られています。

(PwC Japan 公認会計士 梅木 典子 さん)
「いろいろな専門家たちが集結して連携することで、これまで取り扱ったことのないような大きな課題に対して立ち向かっていくことができるのではないかと思う」

県の支援制度は、直接被災した事業者でなくても取引先が被災するなどして影響が出ている事業者もいることから、2016年からは被災事業者以外の利用が認められています。被災地の経済を巡る課題が複雑化する中、継続的な支援が求められています。

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