改修・親族の説得で高値に…「空き家」の売却競うカードゲーム、開発したのはあの都市

京都市の空き家カードゲームの試作品をプレーする学生たち(京都市左京区・京都工芸繊維大)

 空き家や相続問題への関心を高めてもらおうと、京都市は空き家を題材としたカードゲームの開発に取り組んでいる。カードを使って老朽化した空き家の改修や親族への説得を行い、いかに高値で売却できるかを競う。空き家に関する知識を遊びながら習得してもらうことが目的で、2024年度中の完成を予定する。市が目標とする空き家の流通促進という「上がり」に役立つか、期待される。

 京都市内には現在、10万6千戸(2018年度)の空き家があると推定され、うち約4万5千戸が流通せずにいる。市は22年、子育て世代の市外流出抑止や空き家の流通促進に向けて全国初の「非居住住宅利活用促進税」(別荘・空き家税)の関連条例を制定。26年以降に課税が始まる。

 ゲーム開発は空き家の活用に向けたプロジェクトの一環。市には年間約2400件(22年度)の相談が寄せられているが、「活用の仕方が分からない」「所有者不明で困っている」など相続した子らの対応が課題になっている。現役世代を含めて空き家問題を考えてもらおうと、昨年秋からボードゲーム開発会社タンサン(左京区)などと制作に着手した。

 ゲームは、決められた期限内に自分の空き家をできるだけ高い価値で売却できるかを競う。参加者(2~5人)の持ち家はボード上の駒に置き換えられ、全員が3500万円の物件価格でスタートする。最初に配られる手札には、雨漏りや床の傾き、旗ざお地といった実際に生じるマイナス要素が記されており、資産価値が大きく下落した状態でのスタートを余儀なくされる。さらに物件を手放したくない親族カードも全員に配られ、話し合いが解決しなければ売却に移れないというリアルな設定になっている。

 ゴールまでの期限は、24年度から導入された相続登記義務化に合わせて3年以内とした。参加者は季節ごとに決められた枚数の中から家の修繕や登記などの書類不備を解消するカードを選び取り、家の不備を徐々に解消しながら価値を高めていく。売却のターンでは、大手業者や地元不動産屋によって引かれる手数料が異なっており、現実に近い流通のプロセスを盤上に落とし込んだ。

 試作段階の3月中旬、京都工芸繊維大(左京区)で学生を交えたテストプレーがあった。学生らは、家の修繕に加えて市の制度紹介を兼ねた「空き家相談員カード」といったお助けアイテムを使いながら駒を進める一方、親族との話し合いを後回しにしたことで売却に遅れて負けてしまうプレーヤーもいた。

 カードの中には、浸水想定区域や事件事故の告知事項ありなどのマイナス要素のほか、近隣に小中一貫校ができるといったプラス要素もあり、札の出方で資産価値が増減するゲーム要素も盛り込まれている。

 参加した同大学院生の鈴木達さん(23)=左京区=は親族が空き家を所有しているといい、「ゲームに参加して『自分事』と考えることができた。放置することで家が年々悪化することや登記関係の必要性も理解できた。ただ売りたくない気持ちも分かるので賃貸という選択肢でゲームを戦略的に進めても面白い」と感想を話した。

 市は今後、各地でテストプレーを重ねてルールやカード内容の修正を行い、24年度中の完成を目指す。ゲームは空き家関連のイベントなどで活用する予定で、市住宅政策課は「難しいイメージがある空き家問題だがゲームを入り口として、幅広い世代に楽しんでもらいたい」としている。

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