ありがとうキダ・タローさん CM曲から校歌、まちの応援歌まで 心弾むメロディーいつまでも

自身の作品のコンサートで舞台に立つキダ・タローさん=2010年12月、神戸新聞松方ホール

 どこかちゃめっ気のある軽快なメロディーは関西人の暮らしに溶け込み、心を弾ませた。14日に亡くなった「浪花のモーツァルト」こと作曲家のキダ・タローさん。宝塚市生まれ、西宮市育ちで、地元兵庫の旅館や学校などにも曲を贈り、長年親しまれている。関係者からは追悼と感謝の声が相次いだ。 ### ■有馬 兵衛向陽閣

 〈有馬 兵衛の 向陽閣へ♪〉

 多くの関西人が思わず口ずさんでしまう、わずか5秒のCMソング。キダさんが1962年ごろ、有馬温泉の老舗旅館「兵衛向陽閣」のために書き下ろした。

 風早和喜社長(72)によると、阪神・淡路大震災が起きた1995年頃までは、関西に限らず関東や東海、中四国など広範囲でCMを流していた。「全国的に40代以上の人に特に聴きなじみがあるようです。向陽閣の名前が知られるようになったのは、一度聴いたら覚えられる素晴らしい曲のおかげ」と感謝する。

 あまり知られてはいないが、この5秒の歌は元々3番まである曲の一部分だった。音源も楽譜も残っておらず、全容は長年分かっていなかったが、2018年、テレビ大阪の番組内で蘇らせようとキダさんに再制作を依頼。作詞家もず唱平さんとの関西大御所コンビで、味わい深い演歌調の曲に仕上がった。

 キダさんと打ち合わせをし、レコーディングにも立ち会った取締役宿泊部長の岸本宏史さん(59)は「『どんな歌にしましょう?』『何でも言ってくださいね』と気さくに話していただいた」としのぶ。

 曲は4分17秒。向陽閣の公式ユーチューブチャンネルで聴ける。 ### ■伊丹市立荻野小学校校歌、荻小おんど

 伊丹市立荻野小学校では、キダさんが作曲した校歌を児童たちが元気いっぱいに歌っている。1976年、市内15番目の小学校として創立した同小には当初校歌がなかった。そこで初代PTA会長だった、地元酒店「中村本店」の先代社長中村紀男さん(故人)が知り合いのキダさんに校歌の制作を依頼した。

 中江洋忠校長(49)は「子どもたちが聴いて元気になる温かい歌。大切に歌い継いでいきたい」と話す。

 キダさんは校歌と対になる、もう一つの曲を残している。「荻小おんど」だ。小学校にオリジナルの音頭があるのは珍しい。盆踊りの振り付けがあり、体育大会の「全校演技」や地元夏祭りで長年住民に親しまれてきた。「若い時にはよく踊りました。すてきなリズムで、本当に良い曲ですよ」と紀男さんの妻光代さん(80)が声を弾ませる。

 ただ、コロナ禍で行事のあり方が見直される中、体育大会の「全校演技」は取りやめになり、荻小おんどを知らない児童がほとんどになっているという。

 中江校長は「来年度は創立50周年を迎える。キダ先生からいただいた大切な荻小おんどを風化させないよう、記念の節目に子どもたちが触れられる機会を考えていきたい」と話す。 ### ■加東市応援歌

 キダさんは地域の人たちにも曲を贈った。加東市の市制発足2年後の2008年に作曲した応援歌「勇躍加東」。地元在住の宮田賢三さんが手がけた、「活力」や「元気」などプラスイメージの言葉があふれる歌詞に、キダさんがさわやかで郷愁を誘うメロディーを付けた。毎年、市主催の夏祭りなどで流されている。

 企画政策課副課長の村上計太さん(43)は「ほとんどの市民が聴いたことがあるのでは。市のテーマ曲のような存在です」と愛着を語った。

 同課では「勇躍加東」などを収録したCDを1枚500円で販売している。 (藤森恵一郎)

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