「高濃度のPFAS検出」民間調査結果公表から2カ月 今後に懸念の声 米軍三沢基地(青森県)隣接の池

大型連休中の五川目堤。釣りをして楽しむ家族連れなどの姿が目立った=5日午後、三沢市三沢淋代平

 米軍三沢基地(青森県三沢市)東側のため池「五川目堤(いつかわめつつみ)」で、発がん性が疑われる有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」が高濃度で検出された-という民間調査結果が公表されて2カ月が過ぎ、今後を心配する声が出始めている。水道水への影響はない。だが「永遠の化学物質」は、低減が難しい。専門家は市民の安全を守るためにも、継続的な行政による調査に加え、基地を管理する米軍の協力を仰ぐべきだ-と提言する。

 市中心部から北東へ3.5キロ。東西0.7キロにわたって延びる五川目堤は基地内の池と通じ、かつて農業用水として使われた。今は水を引く農家はいない。休日はヘラブナ釣りを楽しむ家族連れが多いが、釣った魚を口にする人はいない。

 「五川目堤で国の指針の約15倍というPFASが検出された」。都内の市民団体「食の安全・監視市民委員会」が3月、独自の調査結果を公表。これについて五川目堤近くの市民の間では、飲用に使われていないこともあって冷静な受け止めが目立つ。一方で「気持ちのいいものではない」という不安の声も聞かれた。

 「人類はPFASの恩恵を受けてきたんです」。環境省の専門家会議メンバー、鯉淵(こいぶち)典之氏(群馬大大学院教授)は説明する。

 人工的に作られたこの物質は水や油をはじき、熱に強く、いつまでも消えない。航空機などの大規模事故では炎の勢いを閉じ込める効果があるため、米国では消火剤用に長く使われてきた。しかし後に腎臓がんの発症やコレステロール値の上昇といった健康被害の恐れが指摘されたため、米国では日本より厳しい規制が敷かれるようになった。

 活性炭処理という、炭でPFASを吸着するような処理方法が有効とされているものの「完全除去は難しい」と鯉淵氏。強い光を当てて殺菌するような研究も進むが、道半ばだ。

 専門家会議メンバーの一人である原田浩二氏(京都大准教授)は今回、市民団体から依頼を受け五川目堤の水質データ解析に当たった。原田氏は同市の水道水が、地下水を水源としていることに着目する。「土の中に沈みこみ、地下水に汚染が広がっていく可能性も考えなければならない」。その上で「地元自治体とすれば、測定したデータを積み上げていくことが大切。逐一、市民に向け情報公開するのも必要」と訴えた。

 市や県は4月、五川目堤の水質調査に着手した。結果は6月までに判明する見通し。調査した関係者は、市民団体のデータを「信憑(しんぴょう)性が高い」とみている。

▼滞る米軍の情報提供

 PFASを巡る米軍から地元などへの情報提供は、2023年12月を最後に行われていない。

 「三沢飛行場の貯水池にPFASの汚染水が19万リットル保管されている」

 同年7月、沖縄県の地元紙が、こうした内容の記事を掲載した。PFAS入り消火剤を含んだ水が消火訓練後、プールのような場所にためられている可能性がある-として、基地を抱える三沢市は真偽を確かめようと、防衛省東北防衛局に問い合わせた。

 5カ月後の12月、米軍は同省を通じ回答。汚染された水をためる場所の存在を認めた。そして「あふれそうになった水は浄化した上で(五川目堤につながる)調整池と呼ばれる池に流した」という説明を行った。ただし▽どの程度浄化をしているのか▽いつから基地外に通じる池に流しているのか-ということには言及はなかった。同省はさらなる情報提供を求め、市も同省に催促しているが、なしのつぶて。情報提供が滞っている状況が続く。

 環境省のPFASに関する専門家会議メンバーの鯉淵典之、原田浩二両氏とも問題解決に向け、米軍の協力は不可欠と説く。鯉淵氏は「基地内で使われる消火剤が原因となっている可能性が高い。米軍に対し情報提供を目的とした働きかけを強めるべきだ」とした。

 実は基地西側にある天狗(てんぐ)森ため池でも、高濃度のPFASを含む水の流出が22年1月、確認された。消火システムの故障が原因だった。これまで小川原湖南の姉沼にも通じる排水路で市による10回の定期検査が行われているが、連続して国の指針を上回る状態が続いている。基準を下回る気配は見えない。

▼地位協定が壁 費用負担重荷に/沖縄

 PFASは全国の米軍基地周辺の河川や地下水から検出され、近年問題となっている。ただし日米地位協定が壁となり、日本の調査が及んでいない。

 在日米軍専用施設の約7割が集中する沖縄県は2016年以降、汚染源調査などを目的とした立ち入り調査を6件申請した。うち認められたのは米軍が流出を明らかに認めた2件。残り4件は認められず、進ちょく状況についても明かされていない。基地を管理する米軍の裁量権が大きく、同県基地対策課の担当者も「行政の力では(これが)限界」と語る。

 PFAS検出は水道水への影響も心配され、県にとって対策費は重い負担となっている。この8年、水質分析や原因物質の除去のための総事業費は30億円超。防衛省の補助金などを受けているものの、問題の根は深い。今後、年に約10億円の支出が必要という試算もある。

 「米国は国内で厳しい規制を設ける一方、国内基地に対する規制はそれほど徹底していない」。PFASと基地問題に詳しい森啓輔氏(専修大准教授)は「二重基準」になっていると明かす。「仮に基地内の漏出が疑われても、立ち入りができなければ原因が特定できない。自治体は泣き寝入りするしかない」。その上で、国内法が適用されるような見直しが必要-という認識を示す。

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