基礎代謝が下がり体重増加やむくみ、便秘…「甲状腺機能低下症」の薬いつまで必要? 運動や食事制限は

 10年ほど前に甲状腺機能低下症と診断され、甲状腺ホルモンを補う薬を飲んでいます。現在、体に異常や気になることはありません。このまま薬を飲み続ける必要はあるのでしょうか。また、運動や食事など日常生活で気を付けることはあるのでしょうか。(福井県福井市、80代女性)

【お答えします】佐藤さつき 福井大学医学部附属病院内分泌・代謝内科助教

甲状腺ホルモン不足で多様な症状

 甲状腺はのどぼとけの下にある蝶(ちょう)の形をした臓器です。甲状腺でつくられた甲状腺ホルモンは心臓、肝臓、腎臓、脳などの全身の臓器に作用します。その主な作用は基礎代謝の調整であり、熱の産生、心拍数の増加の他、血液中のコレステロールの代謝の調整にもかかわっています。

 甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足して起こる場合のほか、甲状腺ホルモン量は正常なのに起こる場合(潜在性甲状腺機能低下症)があります。今回は甲状腺ホルモンが不足する場合について説明します。

 甲状腺ホルモンが不足すると、基礎代謝の低下による体重増加やむくみ、倦怠感、寒がり、皮膚の乾燥、眉毛の脱落、脈が遅くなる不整脈、便秘、月経異常などの多様な症状が現れます。他に、意欲の低下、物忘れがみられることもあり、うつ病や認知症を疑い医療機関を受診される方もいらっしゃいます。血液検査で高コレステロール血症や貧血、肝機能障害が認められることがあり、その原因を詳しく調べる過程で甲状腺機能低下症と診断されることもあります。

 甲状腺機能低下症の原因はさまざまですが、最も頻度が高いのは慢性甲状腺炎(橋本病)であり、女性に多くみられます。甲状腺全体に自己免疫による炎症が起こり、甲状腺全体が腫れることで飲み込みにくさなどを感じることがあります。慢性甲状腺炎は甲状腺に対する自己抗体を血液検査で調べたり、超音波検査で甲状腺の形や大きさをみて診断します。

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内服薬の継続、基本的には生涯必要

 甲状腺機能低下症の治療では不足した甲状腺ホルモンを補うため、合成T4製剤であるレボチロキシン(チラーヂン®S)を1日1回服用します。この内服薬は乳幼児・小児からご高齢の方、妊娠中や授乳中の方も安全に内服できるお薬です。少量から開始し、血液検査を確認しながら適切なお薬の量を調整します。服薬に関する注意点として、牛乳や大豆製品、高繊維食、コーヒー等の食品や、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等を含む内服薬、サプリメントにより、お薬の吸収が悪くなることがあります。その場合には内服のタイミングを起床時や眠前に変更することで安定した効果を得られます。

 甲状腺機能低下症は一生おつきあいが必要な病気で、基本的には内服薬の継続が必要です。内服薬により安定した代謝状態を保つことができれば、日常の活動に特別な制限なくお過ごしいただけます。

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