どうなる?食卓の定番「漬物」 法改正に伴う6月からの販売の営業許可制で製造を断念する生産者も 求められる食文化の継承と食の安全の両立 【トレンドいわて】

食卓の定番「漬物」が食品衛生法の改正に伴って、6月から全ての生産者が営業許可を得なければ販売できなくなります。法改正の背景や生産者への影響を取材しました。

食品衛生法上の漬物とは、梅干しやキムチ、ピクルスなども含めた野菜や果物などの原料を塩、しょうゆ、みそなどその他の材料に漬け込んだものです。

これまでは審査のいらない「営業届」を出すことで生産者は地域の産直などで販売することができました。しかし来月からは漬物を販売する全ての生産者が保健所に申請して審査を受け、営業許可を得なければならなくなります。

今回の法改正の背景を県の担当者に聞きました。

(県くらしの安全課 食の安全安心担当 千葉 正 課長)
「平成12年(2000年)以降に全国的に浅漬けによる食中毒がたびたび発生していてリスクを検討した結果、漬物製造は許可制へ移行することが決定した」

漬物販売の営業許可制は新規参入の個人や団体を対象に3年前の2021年6月から始まっていますが、それ以前から漬物を生産していた人たちには猶予期間が設けられていました。

この間、県は講習会を開くなどして生産者の相談を受け付け、240の生産者が営業許可を取得しています。許可を得るのに必要となる要件はいくつかありますが、最も重要となるのが、国際的な衛生管理基準を満たした施設や設備を整えなければならなくなったということです。

許可を得るための手続きの流れを保健所の担当者に聞きました。

(県央保健所 環境衛生課 上山 昭 課長)
「(施設設備を整えて)営業できる段階で申請してもらって現地を確認させてもらい、申請内容と施設設備の図面が合致しているかどうかを確認して、約10日前後で許可が出る」

来月以降、許可を得ずに漬物を販売した場合は行政処分の対象となり、これに従わず営業したときは、懲役又は罰金に処される可能性があります。

(県央保健所 環境衛生課 上山 昭 課長)
「いわゆる無許可営業を行った者は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処するとされています。食中毒の防止という法改正の趣旨を踏まえると適切に許可を取ってもらうのが大切だと考えいている」

県は引き続き生産者の相談に応じるとしています。

漬物といえば、家庭の味として自宅の台所で作るイメージもありますが、それが今回の法改正で認められなくなります。生産者の中には、悩んでいて申請に至っていないケースもありますし、販売用の漬物作りをやめる人も出てきています。数十万円から高いと100万円を超えるともいわれる基準を満たした施設や設備への投資ができないことが主な理由です。

盛岡市下飯岡のサン・フレッシュ都南です。こちらの産直では、30人ほどの組合員が漬物を出荷していますが、営業許可を取得したのは10数人に留まっているといいます。

サン・フレッシュ都南に漬物を出荷する生産者の1人、高橋洋一さん(79)は今年2月に営業許可を取得して事業継続を決めました。

(髙橋 洋一 さん)
「異常気象で野菜の値段が上がったり下がったりするけど、幾らかは自分の好きな値段で売れるのはいい」

漬物づくりのキャリアは40年以上という高橋さん。事業継続のために施設や設備の一部を改修しました。

(髙橋 洋一 さん)
「おかげで固定客というか『これうまいんだよな』と言ってくれるお客さんがいて、じゃあもう少し続けるか、できるまでやろうかって」

一方で漬物づくりをやめる決断をした人もいます。吉田アツ子さん(81)です。

(吉田 アツ子 さん)
「4月いっぱいで辞めることにしました。工房(施設)もないから」

吉田さんは漬物づくりのための施設や設備への投資を断念しました。ウルイやフキを出荷することで生活のための収入は確保できるということですが、40年以上続けた漬物づくりからの撤退に無念さをにじませます。

(吉田 アツ子 さん)
「法改正で政府が決めたことだから、一人で頑張ったって駄目だから。実際は悔しい。稼げるうちは稼ぎたいなと思ってお願いしたい」

雫石町橋場の「道の駅雫石あねっこ」では、産直の組合員3人が漬物を出荷しています。全員が営業許可を取得し、うち1人は、基準を満たした道の駅の加工施設を利用して生産を続けますが、施設を訪れる機会が増えることは生産者の負担増加につながります。

(道の駅雫石あねっこ 武田 知也 さん)
「法改正に至った経緯は考えれば分かるんですけど、もう少し生産者に寄り添うようにできなかったのかな」

今回の法改正で将来的に出荷量が減少し、食卓で漬物を味わう機会が失われることが懸念されています。

秋田県の「いぶりがっこ」など、他の県や岩手県内の一部の自治体では、漬物を作る施設設備の投資に補助金を出す例もあります。食文化の継承と食の安全をどう両立させるかさらなる議論が求められています。

© 株式会社アイビーシー岩手放送