プロ野球の選手登場曲で話題、シンガー・ソングライターBigfumiって? 躍進の裏にタイガース選手

固い絆で結ばれている阪神・梅野隆太郎選手(左)とBigfumiさん(提供)

 プロ野球での選手登場曲は、時に投手や打者を鼓舞し、ゲームの流れを変える。ここ数年、登場曲で試合の盛り上がりに一役買っているのが巨漢シンガー・ソングライター、Bigfumi(ビッグフミ)さんだ。阪神タイガースの梅野隆太郎選手の曲をきっかけに他の選手からも使用が相次ぎ、兵庫県姫路市に誕生した新球団には応援歌を書き下ろした。躍進の裏には、苦しいときに助けてもらった梅野選手との固い絆があった。(藤森恵一郎)

### ■梅野選手は恩人

 本名は大川内文哉、宮崎市出身の31歳。Bigfumiの名前は身長178センチ、体重150キロの体格に由来する。口ひげを生やした厳つい顔も相まってレゲエ歌手やラッパーに勘違いされることもあるが、その音楽性はゆずやコブクロなどがルーツのJ-POPど真ん中だ。

 恵まれた体格を生かし高校でレスリングを始め、国体で3位に輝いた。だが、特待生として入った大学のレスリング部でいじめに遭った。人間関係に悩む中、心のよりどころだったのが学生寮。一つ上の先輩に梅野選手がおり、かわいがってもらった。素振りをするそばで生歌のリクエストを受けたこともある。「居場所があったことが僕の救いだった」。当時をそう振り返る。

### ■登場曲に起用

 大学を中退し、高校時代からの夢だった歌手の道へ。福岡を拠点にライブを重ねた。

 転機は2017年。梅野選手から連絡があり、「Life」が登場曲になった。大学時代、つらくても前を向こうと、寮でサビを作った人生賛歌だ。

 「すごくいい曲です」。Lifeをそう絶賛する梅野選手。実は当時、Bigfumiさんに「登場曲を作って」とお願いし、書き下ろし曲が出来上がったが、既存曲のLifeの方が「耳に入ってきた」ため、この曲の起用を決めたという。「Bigfumiの歌声はすごく深みがあって心に響く」と話す。

 翌年、Bigfumiさんは梅野選手を追って、九州から甲子園球場近くに引っ越した。同年、阪神の中谷将大選手(23年引退)から登場曲の書き下ろしを依頼されるなど、野球界で知名度は次第に上昇。今季はオリックス・バファローズの井口和朋投手、千葉ロッテマリーンズの山口航輝選手ら6球団7選手の登場曲に使われており、山口選手には「後悔なき航海」、日本ハムの山崎福也には新曲「サチあれ!(仮)」を書き下ろした。

 「強いメッセージ性があり、応援歌を作ってもらうにはもってこいの人だと思いました」。今春、関西独立リーグに参入した球団「姫路イーグレッターズ」のオーナー三尾真一郎さん(38)は、知人から紹介されたBigfumiさんの曲を聴いて感動し、応援歌の制作を頼んだ。

### ■選手らに「取材」

 Bigfumiさんの歌詞は難しい言い回しがなく、シンプルだ。たびたび挫折や葛藤を描くのは、自身のレスリング経験に照らし「スポーツ選手の努力が報われるのはほんの一瞬」と知っているから。「苦しさや悔しさ、泥くささにフォーカスすることが多い」という。

 書き下ろしの場合は、事前に選手本人と会い「取材」するのもこだわりだ。これまでの半生や座右の銘、生きるうえで大切にしていることを聞き、曲のイメージを膨らませる。姫路-の応援歌制作でも、三尾さんらと食事をしながら球団立ち上げの思いなどを聞き、姫路城や球場などを見て回った。

### ■「白鷺城」から着想

 完成させた「WE RISE UP」には「ここから立ち上がろう」という熱いメッセージをこめた。

 〈たとえこの翼が折れようとも たとえこの翼が泥まみれでも 僕らは飛び立つことを諦めない〉

 球団名の由来にもなっている、姫路城の異名「白鷺城」から着想を得て歌詞を書き、PR動画のBGMにも使えるよう主張しすぎず優しい曲調にした。

 三尾さんは「仕事の合間にも聴き、勇気をもらっている。立ち上げたばかりの球団なので失敗も多いが、曲のようにいつか世界に羽ばたきたい」と思いを重ねる。

### ■「梅野のイメージ払拭」

 Bigfumiさんにとって梅野選手は憧れのヒーローであり、兄貴分。たびたび食事にも行き「あいさつからマナー、プロとしての体調管理までたくさんのことを教わってきた」と感謝する。

 一方、梅野選手からは「梅野(の曲を作った歌手)のイメージを払拭していこう」とも言われてきた。最近になって独り立ちできるようになってきたと感じている。2月にサンケイホールブリーゼ(大阪市北区)で開いたホール公演はチケットが完売。「梅野さんからキャンプ中にもかかわらず『すごいところまで来たんじゃないか』と連絡をもらった。ようやく認められるようになってきた」と喜びをかみしめる。

### ■目標はフェスティバルホール

 目標は音楽の殿堂フェスティバルホール(同)でのワンマンライブ。「音楽業界でホップするきっかけを梅野さんにもらった。2024年はステップを踏んで駆け上がり、最終的に高くジャンプして目標をつかみ取りたい」。そうすることが恩返しだと信じている。

 6月15日午後6時半から梅田クラブクアトロ(同)でライブを開く。詳細は公式サイトで。

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