「富士山×ローソン」問題 全長20mの黒幕で“無期限封鎖”が示す、オーバーツーリズムの深刻度

「ローソン×富士山」が映えると外国人観光客が殺到した河口湖町(kazuphoto / PIXTA)

「(外国からの)観光客があの場所に増えたのは約2年前の秋からです。きっかけは有名なインフルエンサーがローソンと富士山を収めた写真をSNSにアップしたことでした。あの場所は駅から徒歩で2、3分の距離で、それまでも観光客の往来はありましたが、写真がアップされて以降、あの場所で立ち止まって写真を撮る観光客の姿が一気に増えました」(富士河口湖町都市整備課担当者)

5月21日午前。富士河口湖町は駅からほど近い距離の「ローソン河口湖駅前店」。同店を片側一車線の道路を挟んだ歩道に、黒幕が設置された。

黒幕は高さ2.5メートル、長さ20メートルの農業用の遮光シート。この巨大な”目隠し”によって、「富士山×ローソン」の映え写真を撮影するために外国人観光客が殺到したエリアは、ひとまず“封鎖”された。

2年間の“我慢”の末の決断

河口湖町が強硬手段ともいえる、歩道に黒幕を設置する決断に至るまでには約2年間にわたる観光客らの〝マナー違反〟があったという。冒頭の整備課担当者が黒幕設置の経緯について説明する。

「インフルエンサーのSNS以降、これまで素通りされていた場所が富士山とローソンの写真を撮るために観光客が訪れるようになり、それにともない近隣住民らから苦情を受けるようになりました。苦情の内容は『歩道にごみを捨てている』『横断歩道のない道路を往来している』『(歩道に隣接する)歯科医院の敷地に内に入ったり勝手に駐車したりしている』などのものでした」

そうした苦情を受け、町側は実際に現場を視察。すると、車の交通があるにも関わらず撮影スポットの歩道側に渡るため、ローソンから道路を横断する姿が散見され、「交通事故を起こす危険性もかなり高かった」(同前)という。

そこで、町側は英語や中国語などでマナー違反を禁じる注意書きをした看板を立てたり、警備員を配置したりするなどの対策を講じたが、効果は見られなかったという。

「多い日には一日20、30人くらいの観光客があの場所を訪れていました。そのような経緯から(町側としては)先月、観光客が集まらないように黒幕を設置せざるを得ないという判断を下し、本日の設置に至りました」(前出・都市整備課担当者)

全国の観光地に迫りくるオーバーツーリズム問題

今回、同町は、当該エリアを“封鎖”したが、富士山を背景に抱える同町には代わるスポットが多数あり、今後、第二のローソン問題も発生しかねない…。

さらにいえば、かつてないインバウンド需要であふれかえる他の観光地も同様の判断を余儀なくされている実情がある。

JNTO(日本政府観光局)が5月15日に公表した訪日外客数の4月の推計値は304万2900人と前年同月比で56.1%増、2019年同月比とは4.0%増を記録。単月で300万人を超えるのは1964年の統計開始以降、先月とともに過去最多となっている。

通行禁止や有料化などで対策の観光地も

こうした押し寄せる外国人観光客による、現地の生活に支障をきたすオーバーツーリズム対策への具体的な動きもある。

京都は祇園の一部私道を通行禁止にしている。富士山は7月1日の山開きにあわせ、一人2000円の通行料支払い義務と1日の登山者数の上限を設けるなどを含む条例を議会で可決している。

もはや手放しで外国人観光客を歓迎するには、無理があるほど、オーバーツーリズム問題は深刻化しつつある。

前出の担当者が続ける。

「今回の措置をいつまで続けるのかはまだ不透明です。(黒幕を設置したことで)マナーが改善するのかどうか? その基準も決まっていませんので観察しながら決めていきたいと思います」

円安も相まって空前のインバウンド需要に沸く観光大国日本。外貨によって経済が潤うことは歓迎だが、その負の側面についても真剣に考えざるを得ない時期が来たようだ。

© 弁護士JP株式会社