未来における“空間”の姿ってなんだろう? 森ビルが手掛ける新たな情報発信拠点『TOKYO NODE』でボリュメトリックビデオスタジオを体験して考えたこと

東京都・港区にそびえる虎ノ門ヒルズ ステーションタワー。ここに構えるギャラリー・イベントホール・レストラン・ラボ機能・屋上ガーデンを備えた複合施設が『TOKYO NODE』だ。公式紹介では「ビジネス、アート、テクノロジー、エンターテインメントなどの領域を超えて世界に発信ができる舞台」とうたわれているが、読んでいるだけではなかなかイメージが湧きづらい。というわけで今回直接お話を伺うことにした。

■森ビルが推進する新時代の実空間×仮想空間の融合

取材に対応していただいたのは森ビル株式会社・新領域事業部の茂谷一輝氏。茂谷氏によれば『TOKYO NODE』はさまざまな場所や人をつなぐ、まさにNode(結節点)のように機能する施設を目指しているという。かつて森ビルが開発を手掛け、六本木における新たな文化の集積地となった六本木ヒルズのように、虎ノ門ヒルズステーションタワーがビジネスだけでなく、アートやサイエンス、エンターテインメントなどの領域を超えて様々な要素を繋ぎ、国際都市・東京の磁力をさらに強化したいということだ。

『TOKYO NODE』は4つのレストラン、音楽ライブなども可能な「TOKYO NODE HALL」とそのデジタルツイン「TOKYO NODE DIGITAL TWIN HALL」、展覧会からビジネス・エンタメまで多様なイベントに対応する「TOKYO NODE GALLELY」、新たな都市体験やコンテンツを創出するさまざまな共同プロジェクトを推進する「TOKYO NODE LAB」などで構成されている。ビジネス・アート・エンタテインメントなど、ジャンルレスな"場"を提供する佇まいはまさに「Node」そのものだ。

■ KDDIと共同開発したこれまでにないライブ空間の構築

注目したいのはデジタルツインホール「TOKYO NODE DIGITAL TWIN HALL」で、これは『TOKYO NODE』の46Fに実在するイベントホール「TOKYO NODE HALL」をデジタルツイン化したもの。リアルの会場で起きていることをデジタルツイン上でも連動させて起こすことができるという。「TOKYO NODE LAB」に参画しているKDDIとの共同開発で実現したものであり、この技術を活用すればリアル会場に赴かずともライブに参加したり、デジタル空間でしか見られないようなライブを楽しんだりといったことが可能になる。

また『TOKYO NODE』には「VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」が存在する。ボリュメトリックビデオとは撮影画像から3D空間データを再構成する技術であり、スタジオ内で撮影したモノの動きを3Dデータ化できるというもの。「VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」にはキヤノンのカメラが57台配置されており、これで撮影した点群データをIBMのサーバで3D可し、テクスチャを貼り付けて出力できる。実際の動きに対するタイムラグは約3秒ということで、つまりスタジオ内で自分が踊った姿が、3秒後には3Dデータになってしまうということだ。まさに最新技術を保持するスタジオで、今回伺った際に特別に体験させてもらうことができた。

スリッパを履いてすべてが緑色のスタジオの中へ。ゆるい踊りを踊っていると、眼の前のディスプレイには3秒ほど遅れて踊る自分が映し出されるが、これは実写映像ではなく、点群データとなり、サーバを通り、テクスチャを貼られて3Dデータとして再構成された自分の姿なのだ。眼の前であまりに滑らかに動くので驚いてしまった。360度あらゆる方向からこの姿を確認できるし、再生・一時停止・巻き戻しも自由自在。「3秒前の姿を特定の角度から見る」といったことも可能になる。

■ほぼリアルタイムで映像空間に筆者が出現!

正直もう少しテクスチャの荒いカクついた姿を想像していたが、その精細さは画像のとおりだ。顔や手指のテクスチャの精密さ、そして動きの滑らかさに驚く。驚いていたのは私だけではないようで、「3DCGの世界がポリゴンの精細化ではなく、実物の撮影によってこういう形で進化していくとは思っていませんでした」と語るのは同スタジオを担当する株式会社日テレ・テクニカル・リソーシズの青木伸治さん。日テレで長年CGの担当をしている青木さんにとってもこのスタジオの設備は衝撃的なもので、タレントを撮影し、カメラマンと相談しながらアングルを決めて3D空間に配置する、といったことも可能だという。

体験を通して考えたのは、人の「居る・在る」という認識が進化していくのかもしれない、ということである。自分のコピーが3D空間で「録画・再生」されているという体験は衝撃的で、この衝撃は「自分がいる空間を画面上で再定義されることの面白さ」と結びついていると思う。自身がそこに"居る"ということを強烈に認識させる体験だった。3Dゲームの進化を見ていると、実在する建物などを3D化することは技術として先行しているから、都市のデジタルツインを作って街がそこに”在る”という認識を獲得することはおそらく容易だろう。画面上の「居る・在る」という状態は近い未来さらに発展していくはずで、そのときの”感覚”が今の自身からどのように変容して生まれるのかが楽しみになった。そこでは「空間」という言葉はリアル・バーチャルを横断する言葉になるはずだ(一部の世界では、すでになっているだろう)。未来の『TOKYO NODE』はリアルとバーチャルの空間すらをも結ぶ、新たな結節点になっているのかもしれない。

(文=白石倖介)

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