ウクライナ、もう一つの戦争では前進 「汚職との闘い」

ヴィタリ―・シェフチェンコ、BBCモニタリング・ロシア編集長

ウクライナは1991年の独立当初から、国内にはびこる汚職と闘ってきた。政府関係者も、独立した活動家も、この闘いが国の存亡を賭けたロシアとの戦争に勝利する鍵だとしている。

汚職との闘いはいくらかの成功を収めている。反腐敗団体トランスペアレンシー・インターナショナルは、ウクライナの現在の腐敗認識指数の順位を、2006年以降で最高の180カ国中104位にランク付けしている。

「ほとんどのウクライナの反汚職機関は、かなり良い結果を示している」と、トランスペアレンシー・インターナショナル・ウクライナのアンドリー・ボロヴィク事務局長はBBCに言う。

同事務局長によると、2023年5月に当時のウセウォロド・クニャゼウ最高裁判所長官が収賄容疑で逮捕されたことも、そうした結果の一つだという。

「これは防止対策にもなる。人は誰かが逮捕されるのを見れば、手を汚す前に考え直すからだ」

このほか、ミコラ・ソルスキー農相や、ウクライナ保安庁(SBU)のアルテム・シロ職員などの逮捕も注目された。

この3人は全員、不正行為を否定して保釈されている。捜査は現在も続いている。

節目となったのは2015年だった。「プロゾロ」と呼ばれるデジタルプラットフォームが政府調達における汚職の低減に寄与し、4年間で約60億ドル(約9380億円)の公的資金を節約したのだった。

ウクライナの現在の課題は、税務と税関での腐敗を根絶し、財務の監督を改善することだと、前出のボロヴィク氏は言う。

「西側から多額の資金がウクライナに流入している。もちろん支援国は、その資金が適切に管理されているのか問うている」

汚職はウクライナのわずかな資源を消耗させるだけでなく、近年は外国からの支援を妨げてもいる。アメリカのドナルド・トランプ前大統領は在任中、ウクライナ支援を遅らせていると指摘されると、汚職の懸念を理由に挙げた。

汚職はまた、ロシアとの戦争で新兵を増やすうえで大きな障害となっている。昨年は徴兵をめぐって賄賂への懸念が高まり、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が徴兵担当の地方役人を全員解任した。さらに、何千人ものウクライナ人が、戦争に駆り出されるのから逃れようと、賄賂を贈って国外に脱出している。

「仕事の腕が上がった」

検察の汚職専門部局のアンドリー・シニュク副局長は、政府高官らが汚職で訴追されたと頻繁に報じられるのは歓迎すべきことだと主張する。

「犯罪が増えたということにはならない。私たちの仕事の腕が上がっているということだ」

「反汚職機関が手を出せない人や役職は、ウクライナにはもう残っていない」とシニュク氏はBBCに話す。「おそらくこれが主要な成果だ。数年前には夢にさえ思うことができなかったことだ」。

政府機関である国家汚職防止庁の反汚職政策部署のトップ、ドミトロ・カルミコウ氏は、パスポートや許可証、免許証を発行する行政サービスなど賄賂が最も横行していた分野で、汚職がほぼゼロになったと話す。

また、教育や警察の改革でも大きな進展があったとBBCに説明する。

問題が残る分野

一方でカルミコウ氏は、天然資源の利用(鉱業や林業など)、独占企業の規制や、大規模なインフラ事業などでは、政府による汚職撲滅はあまり成功していないと認める。

「大きな利益と大物らが絡む分野で、前進が最も遅い」

カルミコウ氏によると、「政府は今後5年から10年で司法の浄化に力を入れるべきで、そうすれば行政システム全般がより健全になる」という。

反汚職の活動家たちは、政府が汚職撲滅により積極的になったと認める。

ウクライナの有名な反汚職ジャーナリストのユーリ・ニコロウ氏は、「この前の冬に政府関係者らの頭の中で何かのスイッチが入り、態度が大きく変わった。大事なのは、それが最上層部で起きたことだ」と話す。

「おそらく、物事がうまくいっていないことに気づいたのだろう」とニコロフ氏はBBCに述べ、政府が西側支援国から圧力を受けた可能性もあるとする。そして、「法執行機関が対応を強化した」と言う。

求められる変革

ウクライナの反汚職の取り組みを後押ししているものは何だろうか。

ウクライナのNGO「反汚職アクションセンター」のヴィタリー・シャブニン理事長は、国内世論と支援国からの圧力の組み合わせだとみている。

「汚職と闘うのを政府が望んでいるかや、誰が政府内にいるかといったことに関係なく、世論の圧力と市民社会とメディアの力によって、どんな政府だろうと汚職は無視できなくなっている」

その一例としてシャブニン氏は、国防当局者が軍向けの食料を高値で調達していた疑惑を受けて、政府が2023年に人事を刷新したことを挙げる。

「このスキャンダルによって、国防関連の調達の制度が変わった。これは、大臣が変わっても汚職はなくなったままになることを意味する」とシャブニン氏はBBCに説明する。「汚職スキャンダルは、国家機関を良い方向へ変える力になるかもしれない」。

西側の軍事支援をめぐっては、ウクライナ当局者による横領が起こるのではないかとの懸念があるが、シャブニン氏はこれを否定する。「西側友好国から提供された武器はすべて、ウクライナ軍の手に渡り、効果的に使われている。西側の武器を盗むことは不可能だ」。

だが専門家たちは、ウクライナで汚職を撲滅するためには、政府がもっと努力する必要があると話す。前出のニコロウ氏は、戦時下ではそれが特に重要だと言う。

「汚職は私たちを殺す。弾薬がまったくない状態を望み、弾薬を買う金がない状態を望み、キーウに占領軍を迎えたいのなら、汚職に目をつぶればいい。しかし、占領された後に向こうが最初にするのは、私たち全員を射殺することだ。だから汚職との闘いには生存がかかっているのだ」

(英語記事 Ukraine makes gains in its other war - fighting corruption

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社